第19章 髭切 姫彼岸花の約束・:*+.
「さっきみたいに笑ってみて?僕は君の笑った顔が好きみたい。」
「でも…今は…」
「そっかぁ。じゃあ行こう!」
「えっ?どこに?ちょっ…」
彼はお勘定を済ませると、振り返って私に手を差し出す。
「僕と一緒においで?」
全ての不安を拭い去ってくれるような優しくて温かい笑顔。
差し出された手を握らずにはいられない。
彼がいてくれたら何が起きても大丈夫だって思ってしまう。
まだ出会ったばかりなのに…彼はこんなにも私の心を埋め尽くしてしまう。
どうしよう。好きになっちゃいそうだ…。
「ここは鎌倉の町で一番賑わっている市場だよ。少しだけ買い物に付き合ってもらっても良いかな?」
「もちろんです!」
彼に連れられてやってきた市場は多くの人で賑わい、通行人がひしめき合う。
彼が呉服屋で買い物をしている間、軒先で待っていた私は、茜色に染まる空を見上げた。
これからどうしよう…。
泊まる場所も探さなきゃいけないけど、お金もないし、まだ時空移転装置も動かない。
彼とはもっと一緒にいたいけど、いつまでも一緒にはいられないだろうし…。
「退いた退いたー!!」
茫然と考え事をしていた私の目の前に、勢いよく走ってくる武士が迫る。
「ひゃっ…!」
ぶつかるっ!…え?痛く…ない…。
ぎゅっと閉じた目を恐る恐る開けると、私は"彼"の片腕の中に閉じ込められていた。
柔らかな雰囲気からは想像できない逞しい身体付きに、胸の高鳴りが止まらない。
「あ…ありがとうございます。」
「君は僕が捕まえていないとだめみたい。」
くすっと悪戯に笑いながら、もう片腕を腰に回しぎゅっと抱きしめられる。
密着した身体から、彼のお日様のような優しい香りがふわっと漂い胸に迫る。
「えっ…と…」
「うん。やっぱり君といると落ち着くなぁ。このまま一緒にお昼寝したい気分だよ。ねぇ。口開けて?あーん。」
「え?ぅむっ…!」
私の口の中に、甘い餡子の上品な風味が広がる。
「甘いっ〜!金鍔ですか?」
「うん。可愛い。いいこで待っていてくれたご褒美だよ。ねぇ。君が元気になれるように僕のお気に入りの場所に連れて行ってあげる。」
ぎゅっと手を握り締めて歩き出す彼に続く。
もう…どうしたらいい?
予測不能な彼の言葉に行動に、翻弄されて幸せすぎて切ない。
一緒にいればいるだけさよならが辛くなるのに、彼の手を振りほどくなんてできない。