第18章 大倶利伽羅 蕩けるチョコは甘い媚薬・:*+.
「…っ!これは…まずいな…」
額からは汗が流れ落ちる。
喉の渇きが尋常じゃない。
心臓が爆発しそうなほど激しく脈打つ。
なんとか理性を保ち、ふらふらした足取りで自室へと向かう。
俺が欲しいのは…いろはだけだ。
いろはを思い浮かべた瞬間、欲望が疼き、ぞくぞくするほどの熱が身体中を支配する。
自分の欲情対象がいろはだけに向けられていることを自覚し、矜恃を感じる反面、恐怖を感じる。
会いたい。いや、会ってはだめだ。
触れたい。いや、触れてはだめだ。
今こんな状態でいろはに会えば、あいつを壊してしまう。
「っ!いろは?!」
大倶利伽羅が廊下を曲がった瞬間、自室の前に一番会ってはいけない人物が目に入り息が止まる。
「伽羅?どこか出かけてたの?」
「…いろは、部屋に戻れ」
私はいつもと様子が違う伽羅のもとに駆け寄る。
伽羅を覗き込むと山吹茶色の瞳が熱を宿していて、心臓がどくっと跳ねる。
それは伽羅が夜にしか見せない甘い情事を思い出させる瞳だ。
「か…伽羅…?体調悪いの?ふらふらしてるし、汗もかいて…大丈夫?」
「っ!」
私が伽羅の額に触れた瞬間、伽羅はぐいっと私を引き寄せ自室に入ると、強引に私を押し倒す。
手にしていたタルトの箱が床に落ちたことなんてもうどうでもいいほどに、伽羅の焦燥しきった姿が辛くて苦しくて目が離せない。
「伽羅…どうしたの?どこか痛い?」
「…すまない。いろは、とりあえず逃げろ…はぁ…俺…から逃げてくれ…」
「そんなのできないよ…こんな伽羅を置いていけない」
この状況に理解が追いつかなくて、緊張感からうまく息ができない。
「今の俺は…お前を壊してしまう…頼むから…」
本能が逃げろと警告音を響かせる。
いつもなら優しく温かいその瞳が獰猛な野獣のようで、映り込む私は完全に今から捕食される獲物だ。
逃げなきゃいけないのに…頭が、身体が、彼を求める…
「いいよ。伽羅になら…壊されても何されてもいい。」
一切の迷いなく反射的に出てきた本心を肯定するように、身体が自然と動き伽羅をぎゅっと抱きしめる。
「っ…!傷つけたく…ない。はぁはぁ…」
「っ…うん」
言葉とは裏腹に伽羅は欲望のまま首筋に強く噛みつく。
ピリッとした痛みが全身を貫くが、その痛みさえ伽羅の欲心なら愛しいと思ってしまう。