第18章 大倶利伽羅 蕩けるチョコは甘い媚薬・:*+.
「いろはさん、長谷部さんが探していらっしゃいます。」
「っ!…分かりました。ありがとうございます。」
突如、部屋に顔を出した美月さんを見た瞬間、涙がこぼれ落ちそうになり、私は逃げるようにその場を立ち去った。
「あらあら…喧嘩でもされたのですか?」
「…」
「大倶利伽羅さんも…そんな顔されるのですね。」
「…触れるな」
大倶利伽羅は、頬に触れようとする美月の指を払い除け、いろはの後を追う。
「ふふ…困ったなぁ。大倶利伽羅さんがもっと欲しくなってしまいました。」
美月は大倶利伽羅の背中を、挑戦的な熱を孕んだ瞳で見つめながらそっと呟いた。
ーその夜。
研修を終えた私は美月さんに挨拶を済ませ、台所でタルトの生地を焼いていた。
結局、伽羅と話せないまま時間だけが過ぎてしまった…。
「伽羅に謝らなきゃ…」
あんな態度を取ってしまうなんて…私は本当だめだなぁ…。
今日はバレンタインだし、チョコタルトを渡して早く仲直りしたい。
そんな事をぼんやりと考えていると、オーブンから甘い砂糖とバターの焦げた匂いが部屋に漂う。
「ん?…あっ!!焦げちゃった…!」
少し焦げてしまった不格好なタルトが、今の自分の姿のようで悲しくなる。
「だめだめっ!前向きに考えなきゃ!きっと伽羅なら…分かってくれる…よね」
私は否定的になってしまう考えを払拭するように頭を振ると、焼き上がったタルトを箱に入れて伽羅の部屋へと向かった。
「伽羅いる?」
返事のない部屋の前にしゃがみ込み、ドキドキと不安げに脈打つ胸を落ち着かせる。
伽羅…早く戻ってきて…。
何度だって謝るから
何度だって私の想いを伝えるから
他の人を好きになんてなっちゃやだよ…。
ぎゅって抱きしめて?
この不安な気持ちを消し去って?
ー同時刻の書斎。
ガラっ…。
書斎で椅子に腰掛け本を読んでいた大倶利伽羅は、訪問者を見た瞬間、不快感を露わにする。
「もう研修は終わっただろ。何か用か?」
「あらあら…私には優しくしてくださらないのですね…。寂しいなぁ。」
「…」
うっとりと心酔したような瞳を自分に向ける美月に、大倶利伽羅は違和感を覚える。
「ふふ…。そんなに急がないで?まだお話もしていないのに…。」
本をパタンと閉じ、部屋から去ろうと立ち上がりかけた大倶利伽羅の膝に跨るように座る美月。
