第17章 燭台切光忠 伊達男に身も心も奪われて・:*+.
「ほぅ。いろははやっぱり武家のお嬢さんだったのか?何家だ?挨拶に使いのものを送る。」
「私たちの故郷はここよりもはるか遠くにございます。もう陸奥国会津を発たなくてはなりません。」
「だめだ。俺はいろはを将来の正室にと考えている。」
「えっ!?」
あまりに唐突な申し出に私もみっちゃんも硬直する。
「しかし政宗さまには将来を約束されている方がいらっしゃるのではないですか?」
みっちゃんは私をぐっと引き寄せ、自分の背中へと隠した。
私の腕をきつく掴む手は微かに震えている。
「あぁ。だがそれは俺が望んだ相手じゃない。俺はいろはが気に入った。」
「それは…承服しかねます。」
「ふっ…。まぁそうだよな。いきなり現れた何処の馬の骨とも分からない男に大事なお嬢さんをやるわけにはいかないよな。」
「…っ!」
みっちゃんは複雑な心境を隠すように俯く。
「もう日が暮れるし、夜の旅路は危険だ。とりあえずお前達二人とも俺の城に来いよ。部屋を用意する。」
「…ご恩情に心より感謝いたします。」
みっちゃんは政宗公に深々と頭を下げた。
「いろは。ちょっと付き合えよ?」
黒川城で部屋に案内された私は、みっちゃんを探すために廊下へと出た途端、政宗公に呼び止められた。
「あの…政宗さま…?どちらに?」
「あぁ。お前に見せたいものがあってな。」
政宗公に裏庭の散歩に誘われて、手で目隠しをされながら、進んで行くと小川の心地いい水音が耳に届く。
「着いたぞ。」
「うわぁ!綺麗!!」
政宗公が手を外すと、目の前には月夜に浮かび上がる花々の美しい情景が広がる。
「月来香の花ですか?こんなにたくさん!」
「お前のその顔が見たかった。」
政宗公はふっと微笑むと私の頬に優しく触れる。
「この場所に連れてきたのはお前が初めてだ。」
「政宗さま…」
「なぁいろは。俺と一緒にならないか?」
ふわっと甘い花の香りを連れた夜風が、政宗公の柔らかい茶褐色の髪を揺らす。
真っ直ぐに私を見つめるその凛々しい姿は、呼吸も忘れてしまうほどに美しい。
「政宗さまは素敵です。正直…その魅力に引き込まれてしまいそうでした。」
「なら…」
「でも…私には心に決めた大切な人がいます。」
「…月弎郎か?」
「はい。」