第1章 Look【リドル・ローズハート】
「僕も狙ってるかも」
ユウのこの一言が、リドルの頭の中から離れなかった。それは彼が言うようにリドルが監督生へ恋心を抱いているから____ではない。
むしろそうであった方が都合が良かったのに、と思わずにはいられない程現実とはやはり非情で、思い通りにいかないのだ。
「どうした、リドル。浮かない顔だぞ」
「・・え?」
夕食後、寮長であるリドルと副寮長であるトレイ、ついでに何かと頼りになるケイト。所謂ハーツラビュルのスリートップは談話室にて”何でもない日のパーティー”の段取りを確認していた。
といってもパーティーは一週間後。
こんなに早く確認作業を始める必要はないのかもしれないが、責任感の強いリドルにとって早期準備は必要不可欠。女王として寮の伝統行事を完璧に滞り無く行うことは当たり前なのだ。
ハートの女王の法律に則って食後のレモンティーには角砂糖が2つ入っているしパーティーのケーキ案からマロンタルトは除外。
しかし、甘い物が苦手なケイトは特別角砂糖なしのレモンティー。こういった些細な規律違反をリドルが見逃すようになったのはリドルなりに変わってきている証拠なのだろう。
そんな幼なじみの小さな変化を日々近くで見守っているトレイはリドルがどこか上の空であることに気がつかないはずがない。もちろんケイトだって例外なく。
「さっきから・・・書類が・・いや、同じ書類ばかり見てるぞ」
「そうそう。けーくん的にも気の抜けたリドルくんは不気味っていうか~・・何かあったんでしょ」
2人の視線を一身に受けたリドル。
そんなつもりはなかったが何かおかしなところがあっただろうか。とりあえず手元の書類を見てみると同じ・・どころか逆さまだった。
・・・逆さま?
バッと顔を上げるリドル。
苦笑いで頬を掻くトレイ。
口笛を吹いて視線を逸らすケイト。
2人の様子から察するに、自分は会議が始まって以降こんな調子だったに違いない。
思い返してみると、会議の内容はケーキがイチゴタルトに決まったところで止まっている。
「で、何があったの?」
失態を晒してしまったリドルは情けなさに頭を抱え、2人の質問に答えないわけにはいかなくなった。
我らが寮長の異常事態を黙って見逃してやるほど、2人だって優しくはないのである。