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Villain【ツイステ短編集】

第1章 Look【リドル・ローズハート】


可愛いと思うし良い子だとは思うけど、好きになることなんて有り得ない。それはなぜか、ずばり私だって女の子だから。

女の子が好きな女の子だっているだろうけど、私の恋愛対象はれっきとした男である。

とりあえずこの場を収めるため、こうでも言っておけば寮長だって気にせず流してくれるだろうと。話を一方的にふっかけておきながら一方的に終わらせる為、これまた身勝手な私は自分にとって不利益が生じると感じればこうやって逃げるのだ。自分が1番安全な方法で。

心のどこかで女だと気づいて欲しいと願っておきながら定期的に自分は男だと自らアピールするのは一種の逃げである。自分の恋が実らぬことへの言い訳を残しておきたいという大きな矛盾。

だって私は男だと思われてたから、もとから恋愛対象じゃなかったから、って自分を慰めるために。

寮長が男でもいける口だった場合を除きこの言い訳は立派に成立する。監督生が選ばれたということを否定できる、選ばれたんじゃない、監督生しかいなかった・・なんて惨めになりそうな言い訳に逃げられる。

しかしまあ、現実というのは思い通りにいかないものだ。それ故、人生には下り坂がつきものだと、どっかの誰かが言っていた。

今の状況を言い表すのなら、まさしく下り坂。いいや、むしろどん底かもしれない。

楽な方に逃げようとして、罰が当たった。

「・・キミは、監督生が好きなのかい?」

好きな人につらそうな顔をさせてしまった。

ほんの冗談のつもりだったのに。生真面目な寮長は言葉をそのまま受け取ってしまったらしい。

瞬きすら忘れてしまうほど不安げに揺れるアイスグレーの瞳にはうっすら膜が張って見えて、罪悪感と寂しさでこちらまで泣き出しそうだと、胸がぎゅっと苦しくなった。

「・・・りょ、寮長~、冗談ですからそんな顔しないで下さい。ね?例え話ですってば」

努めて明るく、あくまで冗談であったと伝わるよう、けらりと笑ってそう答えた。そうでもしないと寮長が泣き出してしまいそうで怖かった。

「・・そう、だね。すまない」

「あはは、謝ることじゃないですよ!それだけユウのことが好きってことですから」

ね?とすっかり魂の抜けてしまった寮長に笑いかけると苦々しく微笑まれた。それが無言の肯定だと捉えた私は、”恋敵の出現で泣き出してしまった女々しい男”にならない為早々に席を離れた。
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