第1章 Look【リドル・ローズハート】
「ユウ、いつから気づいてたんだい?」
「さあ、いつだったか」
「・・それじゃあボクがここに座る理由は?」
「う~ん、なんのことでしょう」
にこにこと笑うばかりで全く答えようとしない私に寮長はぷるぷると唇を震わせた。きゅ、と一文字に結ばれた口元と先程とは違った意味で真っ赤な顔を見ればプッチン寸前なのは一目瞭然。そうかそうか、そんなに監督生について触れられたのが嫌だったのか。
ちょうど良い、いつもいつも座るだけ座って私とは数える程しか話してくれない寮長への仕返しと洒落こもう。
万年筆を置き、にまあっと口角を持ち上げて詰め寄ると寮長は分かりやすく嫌そうな顔をした。眉間に刻まれた皺が聞いてくれるな、と暗に訴えている。
なるほど、これは確かにフロイドの言う通りからかいがいがあるかもしれない___というのは建前で、いつも窓の外に向いている寮長の意識が完全に目の前の私一点に集中してる、という事実が嬉しくて堪らなかった。
あくまで茶化すように。ちょっとの間寮長の気を引くための可愛らしい意地悪なんだ、これくらい大目に見てくれたって良いだろう。
「で、気になるんですか?」
「…ふ、ふん!キミだってボクの質問に答えてくれなかっただろう。だからボクがその質問に答える義理は無い。ノーコメントだ!」
そう来たか。今にもうぎい!と泣き出しそうな寮長は完全に拗ねた子供のよう。先程の子を慈しむ聖母のようなお顔はどこかに捨ててきたようである。腕を組み黙秘を貫くらしい寮長はノーコメント!と声高々に宣言すると勝ち誇った笑みを浮かべ、どうだ!と言わんばかりにふん、と鼻を鳴らした。
何も状況は好転していないというのに、どこからその勝利の自信が湧き出てくるのだろう。そもそも私と寮長はもとより戦っていないのだが。
そんなに心の内を暴かれたのが嫌だったのだろうか。それともちょっと優しくされただけで惚れてしまう男だと思われたくなかった?どちらにせよこのまま寮長の機嫌を害してしまっては最悪首はね案件になりそうなのでもうこの話はやめにしよう。これ以上詮索して自分に理があるかといえばそれもないわけだし。
〝男〟らしい冗談でも言って話を変えよう。
「監督生って良い子だからあの子に好意を寄せる奴って結構いるんですよ。現に僕だって狙ってるかも_____って、ええ…なんて顔してるんですか」