第1章 Look【リドル・ローズハート】
「お疲れ様、相席失礼しても?」
「お疲れ様です、もちろんどうぞ」
有り難う、と緩く微笑んだ赤髪の美青年は優雅な動作で寮服のマントを翻し私の向かいに腰を下ろした。
「ハートの女王」の厳格な精神に基づくハーツラビュル寮。
雑な言い方をしてしまうと規律にうるさい寮であり、寮内の共有スペースで騒がしくしたり、「ハートの女王の法律」を破ろうものなら人一倍規律に厳しいそれはそれは恐ろしい寮長が飛んできてお咎め・・もとい首はねを受ける羽目になるため怖いもの知らずの馬鹿でない限り寮生たちは各々の自室で思い思いの時間を過ごすことが多い。
故に、授業終わりの夕方頃になると寮内は急にしんと静かになる。遠くから部活動に勤しむ生徒たちの声が聞こえるが、ゆっくり勉強するにはちょうど良いBGMなのだ。耳の痛くなる静寂と程良い雑音、どちらが良いかといえば圧倒的後者ではなかろうか。少なくとも私は後者が心地よい。
さて、では私はどこで何をしているのか。
「それは・・錬金術の予習かい?」
「はい、今日は覚えるべき点が多かったので復習も兼ねて」
「ふむ、勤勉な姿勢は褒めるべき点だ。キミはいつもテストの成績も上位だったね。寮長であるボクとしても喜ばしい」
「はは、寮長に比べたらまだまだです」
自室に籠もらず寮長の目につく場所でわざわざ勉強するよほどの馬鹿とは誰のことか。
言うまでも無い、私のことである。
そして向かいに座る赤髪美青年とは誰か。
無論、首はねマシーンことリドル・ローズハート寮長である。
ここまで聞くと私がただの命知らず、または寮長に媚びお気に入りの座を狙うあくどい奴に聞こえるだろうが、決してそういうわけでは無い。
いや、違うわけでもなくはないかも・・?
ノートから顔を上げ、ちらりと寮長の顔を覗き見る。
そしたら彼と目が合って慌てて私は目を逸らす・・・なんて甘酸っぱい青春はここに存在しない。
私が見つめる寮長は、いつも窓越しに彼女の姿を見ている。
例の異世界人、表面上は学園唯一の女子生徒であるユウの姿を。
そう、私がいつも座るハーツラビュル寮3階の2人がけテーブル。ここは私が密かに想いを寄せる寮長を独り占めできる特別な場所。
そして、寮長にとってはユウを・・好きな人を眺められる特別な場所。