第5章 秘書の憂鬱
部屋にノック音が響き、入室を許可するとセバスがティーポットとカップとポーションを乗せたトレーを持ってきた。
「お加減はいかがでしょうか」
「最悪よ、この世界でのMP空っぽは疲労感がとてつもないわね、天使化の使用は今後考えないといけないわ…
いい香り…こちらへ置いたら下がっていいわ」
「かしこまりました、何かあれば御呼びください」
「ありがとう」
ベッド横にティーセットを置いてセバスは下がった。
飲み物を飲もうと体を起こそうとすると彼が背を支えてくれた。
こういうジェントルマンなとこカッコいいなぁ・・・
元々守護者の中でデミウルゴスはイケメン枠、そりゃユグドラシルプレイ中何度もカッコいいと思ったことはありますとも。
しかもウルベルトさんからは思いつかない紳士っぷりだ。
ティーカップに注がれた紅茶を一口飲み、一息ついてカップを戻して彼の頬に触れた。
「レミエル様…」
「色んな表情を見せてくれるのは嬉しいけど心配しすぎよ」
「っ!取り乱し申し訳ありません」
「いいのよ」
頬から手を離し、またティーカップに手を伸ばそうとしたが、それはデミウルゴスの手によって阻まれた。
「ご無礼を承知でお願いが御座います。…少しでいいのです…、貴女が生きていることを再確認する御許可を…」
あぁ、私はバカだ。守護者の目の前で倒れて、心配にならない者なんてここにはいないんだった・・・。
普段のデミウルゴスからは想像もつかない姿を見てやっと理解した。
「許すわ。今日は貴方のどんな無礼も許しましょう」
「有り難き幸せ…」
許可をしてからデミウルゴスは両手で私の右手を優しく包み、手の温かさを確かめるようにしばらく強く握りしめていた。
「ご無礼をお許し下さりありがとうございます」
「いいわ。それほど貴方の心に堪えるものがあったのでしょう」
ティーカップに手を伸ばし、ぬるくなってしまった紅茶を一飲みした。
「少し寝るわね。寝ている間にモモンガさんが帰ってきたらユリに起こしに来るよう伝えて」
「かしこまりました。ゆっくりお休みください」
そして誰もいなくなった部屋で私は静かに眠りについた。