第16章 今日という日が 【不死川実弥誕生日記念】
お祝い?
どうなんでしょう。よくわかりません。
そんなことしたことはありません。
氷雨くんも、安城殿も、桜くんも、優鈴も。私は誰の誕生日もお祝いしたことはありませんでした。
「そういや、霧雨さんは毎年マメになんかくれるよな。」
「私にも届きましたよ。お手紙も付いてて嬉しかったです。」
「…そうだな。確かに、毎年祝いの品を届けてくれる。」
私がぼんやりと話を聞いていると、突然話を振られて慌てて我に帰った。
「いえ、贈り物をしているのは柱の人たちだけですよ。」
「俺もいただきました。」
「そうですね。もちろん冨岡くんにも。」
冨岡くんが話に入ってきてみんなギョッとしていたが、私は続けた。
「すげぇな。」
「まさか、全員覚えているんですか?」
「?覚えていないと何もできませんよ。」
そう言うと、みんな目を丸く見開いた。
「は〜、あんたって真面目な人なんだなあ。」
「……。」
私はそっと目を伏せた。
「ただ…」
みんなに知ってほしいと思ったのです。
あのとき、私の中に生まれた感情を、知って欲しかったのです。
生まれてきてくれて、ありがとうだなんて。
初めて言われた。
あの時の言葉を、ただ大切にしているだけだから。本当に大したことではないのです。私の贈り物なんて大したこともありませんし。
「ただ、なんだ?」
「いいえ。何でもありません。帰ります。」
「え!?急に!?」
私は一歩前に足を踏み出した。
わかりません。私に祝われたところで、嬉しい人なんていないのかもしれません。
けれど、あの時あの人が私にお花をくれた時のことが忘れられないのです。何のためのお花だったのでしょう、言葉だったのでしょう。
わからなくても、わかりたいと思うのです。
「不死川くん」
「…あ?」
「お誕生日おめでとうございます。」
私はペコリと頭を下げて、記憶の中の言葉と同じことを口にした。