第18章 寂しい気持ち
隊士たちはさっさと逃げていった。桜くんは自分の注文を済ませ、いつもと変わらぬ様子でお茶をすすった。
「また変な噂が流れますよ」
「別にいいよ」
桜くんはぶれない。
「どうせやること変わんないでしょ。」
その姿勢は固い。
周りがどれだけ慌てようと、揺らごうと、人が死のうとも。
不平不満を口では言っても、だらけた姿を見せても、どうでもいいと毒を吐いても。
やることは変わらない。
心は揺れない。
私はすぐ心が揺れる。
桜くんのようにはなれないとわかっている。
「こんなことでいちいち傷つくなんて霧雨さんは繊細だねぇ」
「傷?」
ペタペタと体を触るも、どこにも血はついていない。怪我なんてしていない。
「…嫌な思いしてるってこと。」
「……してません。」
「あんたほんと頑固だね。」
はぁ、と桜くんがため息をついた。
「じゃ憂さ晴らしにご飯食べたら稽古する?」
「や、休まなくていいんですか?」
「良いの良いの。たまには楽しく戦いたいじゃん。」
桜くんがニコッと笑う。
どうしてか、『新しい柱の人が来ても仲良くしてくれますか』と聞きたくなった。
桜くんまで遠くに行ってしまいそうだった。
でも今は、寂しい気持ちを抑えていたかった。
「珍しいですね。いつも稽古とか面倒くさいって言うのに。」
「そういう気分なの!」
次にお内儀様に会ったら、また謝ろうかな。
誰かに嫌われたら寂しいもの。
でもきっと私はこの感情に気づかないふりをしていかないといけない。
鬼殺隊はお別れが多い場所だから。
「わかりました、やりましょう」
「やった。霧雨さんは僕に構ってくれるからだーい好き!」
「私も桜くんが大好きです。」
今はただ目の前にいる人たちを。
鬼殺隊という場所で強くあらねばならないから。
今すぐにでも倒れたい状況でも、なんと言われようとも、寂しくても。
私たちは柱だ。
柱は強く在るから柱足り得るのだ。
例え、自分と仲間に嘘をつき、感情を押し殺してでも。