第15章 知らなかった気持ち
途中で僕が泣き止んでも霧雨さんはお姉さんみたいに手を引いてくれた。
その背中はたくましかったけど、同時にどこか悲しく見えた。
誰も通らないような屋敷へ続く田舎の道を、二人でトボトボと歩いた。早く休みたいのに道のりは果てしないように思えた。
「会いたくても会えないことがこんなにも悲しいとは知りませんでした。」
霧雨さんは何も知らない。
「人が死ぬ、というのは、こんなにも悲しいことなのですか。」
「…そうだよ。本当に、悲しくて悲しくて辛いんだよ。」
「桜くんは、妹が亡くなった時、もっともっと辛かったですか。」
「変わらないよ。人の死は人の死だ。誰が死のうと悲しくて辛いよ。」
霧雨さんは足を止めた。
その時、振り返った顔が泣いているように見えた。
けれど、現実はいつも通りのすました微笑みだった。
「父の死は悲しくありませんでした。」
「……」
「私は父の死を望んでいました。挙げ句の果て、殺しました。今も父の命は私にまとわりついています。消えません、この傷は消えません。永遠に消えてはくれないのです。」
霧雨さんの手を僕はいっそう強く握った。
せっかく止まったのにまた涙が出た。
「安城殿の死はこんなにも苦しくて悲しい…!!私がやったことは何なのですか!!人を殺した傷も、人を殺された傷も深いです!!永遠に消えません!!私が死ぬまでずっと!!!
こんな感情知りません!!こんな気持ち、知りません!!けれどもう知ってしまったのです、安城殿が私に教えたからです!!!」
霧雨さんはどこか遠くに向かって叫んでいた。
「この感情の行き先がわかりません」
静かにぽつりと言った。
「桜くんは強いです。私は、この気持ちを持った今、鬼殺の道を行こうなどと思うことはできません。」
「…霧雨さん」
「苦しんで、苦しんで、苦しんで、この気持ちの中にいたいです。」
人が死ぬことは、悲しい。
この人はこんな簡単なことを知らなかった。わからなかった。だから今、その感情を前に戸惑っている。そして自分が犯した罪の重さを知ったんだ。