第15章 知らなかった気持ち
天晴の死から一週間。
僕と霧雨さんはヘトヘトになりつつもなんとかやっていた。
「昨晩、下弦を斬った隊士がいたみたいですよ」
「よーし。すぐに柱に昇格させようぜ。」
「それがまだ本部で審議中らしいです。」
「ねえ、僕が産屋敷邸を燃やすかそいつが柱になるかどちらがはやいかな」
「いいえ、私が産屋敷邸を破壊するのがいちばんはやいです」
こんな会話をしたのはとある日の任務終わりだった。
たまたま帰りが一緒になったのだ。
「霧雨さん、怪我は平気?」
「毒のせいでたまに右手が言うことをききません」
「あっそ。重症だね。」
「桜くんこそ、過労で倒れたと聞いていますよ」
「その時は一晩で任務を30もこなしたんだ。倒れもするって。」
僕らは大きくため息をついた。
いつも文句を言う僕ならともかく、霧雨さんがこんなに疲れているところを見るのは初めてだった。
当たり前だ。この人だっていくら強かろうがただの人間で、まだまだ大人になれない女の子だ。
「頑張らないといけないのはわかっているのですが、どうも頑張れません。」
「…それ疲れてるんだって。まあ、休めないんだけどさ。」
霧雨さんが一呼吸置いた。
「安城殿に会いたいです」
ぽつり、と呟いた。
その言葉が今の僕らの感情を表した、正真正銘の本音だ。
「僕だって、会いたいよ…」
疲れたとか、これから鬼殺隊をどうしていこうとか、やらなきゃいけない仕事とか、そんなものはどうでもよくて。
なんだって構わないんだ。
「あ、あんじょうさん、に、ぼくだって」
「…桜くん」
「ひさめさんにも、あいたいよ」
ボロボロと目から涙が溢れる。
霧雨さんは笑っていた。
「会いたいです、私、お会いしたいです。」
「うん、うん。僕も…!!」
僕は大泣きした。ボロボロになって笑っている女の子と同じくヘロヘロになって泣いている男の子という謎の組み合わせの二人の子供を見て道行く人が変な視線を向けてきた。
霧雨さんはずっと僕と手を繋いでくれた。その手は細くて小さくて、刀なんて似合わない手だった。