第15章 知らなかった気持ち
僕の声はどんどん小さくなっていった。
「……今は…そんなこと、考えられない…かな」
霧雨さんは笑っていた。
もはやこの人は機能していなかった。いや、わかるよ。上弦と対峙したんだもの。生きていることが奇跡だよ。
でも、今こんな状態では困るんだ。今、柱は二人だよ、二人。この人がここで終わってしまったら鬼殺隊もおしまいだ。
「……私たちが稽古をつけるのは現実的ではないと思います」
「え?」
「私は教えられたことがないので教え方がわかりません。加えて、桜くんが隊士と良い関係が築けるとは思えません。あまりよろしくないかと。」
突然正論が返ってきて驚いた。そっか、と適当に返事をした。
「……………」
「で、でもさ、これから僕らだけでどうやろうって言うのさ。一緒に考えようよ、たとえ現実的でなくてもやってみようよ。」
霧雨さんを説得した。
彼女は途端に黙ってしまった。
「すぐ………すぐ私が戻りますから、そうしたら今まで以上に働きますから…」
そう言ったかと思うとまた黙る。
「そんなの、霧雨さんの負担が大きいじゃないか。僕だってこれまで以上に働く…」
そう言う僕も黙った。無理だ。霧雨さんと実力の差がありすぎる。おそらくこの人はわかっている。
僕は水柱だけども、あまり強くないってことはもうわかっているんだろう。
いや、あの二人が強すぎたのかな。氷雨さんと天晴。あの二人がいなくなったことは正直痛手だ。
「………どうしたらいいのでしょう」
霧雨さんが呟く。
細くて、小さくて、弱々しい声だった。まるで普通の女の子みたいな。
「…どうしようね」
僕も弱々しく呟いた。
僕ら二人はもう限界に近かった。
無傷で活動ができる柱は僕だけだ。任務が今までと比べ物にならないほど増えた。他の柱が担当していた地区も僕が見回ることになってしまったのだ。
正直、霧雨さんの見舞いなんてしている時間もないくらいだった。
「私……今夜から復帰します」
「でも怪我が」
「そうも言っていられないのでしょう」
霧雨さんは笑っていた。
けれど、本当は笑っていないことなんてすぐにわかった。
「うん、そうして。助かるよ。」
僕も言いたくないのに、そんなことを言ってしまった。