第14章 音と霞
時透は見た目通りの地味なやつで、それでもやはり柱としての強さは十分持っていた。
けれど、何も霧雨さんと同じではなかった。霧雨さんの継子だったのかを疑ってしまうほど、あの人とは何も似ていなかった。
戦法も剣技も何かもが違う。
時透を見ていると霧雨さんのすごさというか、そういうものを改めて実感する。
「ありゃ才能の塊だな」
「…ふん」
俺のぼやきに不死川は興味なさげに答えた。
あの才能の塊を霧雨さんはうまく育てたんじゃないか。
「なぁ、不死川。」
「あ?」
「なんか、寂しいもんだな。」
俺はあたりを見渡して言った。不死川は苦笑する。
今日は霧雨さんの屋敷であの人の葬式が行われていた。喪主は形式上はお館様だが、場を仕切っているのは俺だった。
ったく、あの人が死んでから仕事が増えてばかりだ。
霧雨さんの屋敷は取り壊されることが決まっていたから、時透は別の屋敷に移った。
あの人が住んでいた屋敷は日曜大工でギリギリ屋敷らしい形を保ってはいたが、もうボロボロだった。
「まさか屋敷修理までやってたとは尊敬するね」
線香を挙げに来た不死川はつまらなさそうに俺の話に相槌を打った。もう坊さんも帰って葬式は終わった。
ただ、参列者はいないに等しかった。
柱は全員来た。そしてこの屋敷の近所に住んでいた人たち。
近所の人たちはボロボロに泣いていた。恐らくこの人たちは誰も霧雨さんが鬼殺隊だったことも、人殺しだったことも知らないのだろう。
そうだ。あの人は過去さえなければ、本当に優れた人格者で、愛情深い人で、誰にでも好かれるような人だった。
けれど鬼殺隊では受け入れられることもなかった。自分の罪は罪だと、消えないものだと、あの人は一人抱えて死んでいった。
継子であった時透は葬式の間もぼうっとしていた。相変わらず記憶が安定しないのか、まだ『師範はどこ?』と聞いてくる。
その様子に近所の人たちは泣いて泣いて…まあ大変だった。
あの人は10年以上この土地で暮らしていたんだ。そりゃあ情もわくだろう。
その泣き声が、聞いていて結構胸にきたんだ。やたらと疲れてしまった。