第14章 音と霞
「報せを受けて風柱様が駆けつけたそうですが、もうその時には鬼はおらず、霞柱様一人だったようです。」
隠が俺の横で淡々と説明した。
「霞柱様の烏は産屋敷邸に到着して間もなく息を引き取りました。どうやら、烏が重傷を負ったことから援軍が遅れたようです。」
俺ははあ、と息を吐いた。
「霧雨さんで勝てねえようなやつ、柱が何人いてもどうしようもないだろうが。」
つい嫌味な言い方をしてしまって、またため息をついた。
「まあいい。で、不死川は?」
「このところ任務続きだったため、本部からの命によりお休みされています。この度の状況確認には風柱様が立候補されていたのですが、本部が到底そのようなことができる状態ではないと判断されたとのことです。」
「……そうか」
目の前にいる霧雨さんはうんともすんとも言わない。まあ、当然か。
俺は手を合わせて立ち上がった。隠が霧雨さんの落ちた腕と脚を拾って包んでいるのが見えて、俺は目をそらした。
「…相討ちでも勝てなかったのかい、霧雨さん」
彼女は答えない。
「あの、状況報告は…」
「霧雨さんと闘った鬼はまだ生きてる。どう見たってこりゃ、霧雨さんの負けだ。どの鬼がやったかは…烏は言い残して死んだのか?」
「いや…烏は最後にそのようなことは言っていなかったと聞いています。」
「……じゃあ、十中八九上弦だな。」
あの霧雨さんがここまでボロボロになるとは。
一体どれほどの強さを誇る鬼だったのだろうか。
「ちったぁ泣いてスッキリしたかよ」
死体に声をかける。
「最初から泣けばよかったんだ。あんたはいつも意地はって笑ってやがる。本当は悲しい感情も全部わかっていたくせに。」
風が少し吹いて、霧雨さんの髪を揺らした。
「………本当に、俺は尊敬してたんだぜ」
その声は届かない。
最後まで伝えられなかった。伝えなくてもいいと思った。霧雨さんは俺よりも長く生きる人だと思っていたから。まさか自分より先に死ぬなんて思っていなかったから。
なあ、嘘みたいな話がしたかったんだ。本当はそう思っていたんだ。
いつか、嘘みたいな話をして、小鳥みたいな気持ちのいい声で笑うあんたが見てみたかったんだよ。