第13章 心だけだと耐えていたのに
その日から私たちは元に戻った。
もう愛してると私は言わなかったし、体を重ねることもなかった。
それが彼女との関係だった。言葉を与えるなら“心の関係”とでも言おうか。
ともかく、私たちは心を通わせていた。
ある日、私に任務が言い渡された。厄介な血鬼術を使う鬼がいるらしい。
どのようなものかはわからない。誰一人として帰ってこないからだ。柱が駆り出されるのもうなずける。
後から援軍として柱が一人来ると聞いている。急なことなのでまだ決まっておらず、時間にゆとりのありそうな誰かを呼ぶとのことだが、柱は皆忙しい。なるべく早く終わらせたい。
そう思って急ぎ現地へ向かう頃にはもう夜だった。
鬼の気配が感じられず、少し手間がかかりそうだと思った。
「…。これは、仕切り直した方が。」
手を合わせて数珠を擦り合わせる。
じゃり、と音が鳴る。
その瞬間、私は何だか違和感を覚えた。
「…?」
気配を感じて名前を呼んだ。
「行冥」
「…お前が援軍として来たのか。」
なるほど、適任だ。鬼の気配が探れる。
「私では鬼を見つけることができない。お前ならわかるか?」
「鬼ならもう斬った」
驚くことにそう言った。
しかし、彼女ならあり得ることだった。
「そうか、すまない。お前の手を煩わせてしまって。」
「……構わない。」
その時、不意にが私に体を寄せた。
「…どうした、ここは外だぞ」
嫌に体が密着していた。
惜しげもなく押し当てられるものに、心臓の鼓動が加速する。
「行冥、触って」
「…何を」
「ねえ、お願い」
囁かれる甘い言葉に、武器を持つ手から握力が消えていく。
「好きよ、行冥」
「……私も好きだ」
「大好きよ」
ついに手から武器がこぼれ落ちる…その時だった。
「愛してる」
その言葉が聞こえた瞬間、私は何かが自分の体で弾ける音を聞いた。
信じられないほどの雄叫びを上げ、手からこぼれ落ちる寸前だった武器を振り回した。