第13章 心だけだと耐えていたのに
細い体だと思った。筋肉もない。到底剣士とは思えない。
しかし、私が触れる至るところに傷があるのがわかった。ざらざらした感触、他の皮膚より柔らかく、もう消えない傷だと容易にわかる。
「痛いんだけど」
ずっと傷に触れていると拗ねた声が聞こえた。
「痛むのか」
「痛いに決まっているわ。その傷のせいで何日眠ったことか。」
「…それほどか」
「ええ。」
傷から手を離した。
隣でモゾモゾと動く音が聞こえたが、パタリと倒れ込むような音に変わった。
「大丈夫か?」
「死にそうよ。」
「すまない。」
「…構わないわ。良いと言ったのは私だもの。」
「……もう少し眠ればいい。」
「悠長な。」
悪態をつきつつも、私の隣に寝転んだ。
「……ねえ」
「何だ」
「こんなのはこの夜だけよ。最初で最後だから…。」
の声は辿々しくなっていった。…言葉ではどう言ってもどうやら睡魔には勝てないらしい。
「……だから、もう、しない」
頬を撫でた。泣いているのではと思ったが、いつも通り口角は上がっていた。
「…忘れないでね」
消えそうな声で彼女は言った。
「忘れないでね、行冥。私の体。」
それを最後に声が聞こえなくなった。
眠ったのだとわかった。
私は起き上がって、彼女に布団をかけた。
服を身につけ、ゆっくりと立ち上がる。
「……」
ああ、何だか、とても。
これは。
この感情は。
途方もない後悔が私を襲った。
これは死ぬまで、一生消えないのではないか。
自分は何をした。
私は。
「そんなつもりではなかったのに」
愛も知らない無垢な少女に、体を求めた。愛の行為と知らず、彼女は受け入れた。体が目的だと、一晩にして悟った。震えるほどに怯えて、それでも。
自分を襲い、妊娠までさせられた父親と重なったのだ。怖い思いをさせてしまった。
私は急に不安に駆られた。
取り返しのつかないことをしたように思った。
私がしたことは父親と変わらない。
勘違いだ。しかし、それを弁明することはできない。愛を知らない彼女に、何をいえばいいのか私にはわからない。
彼女は、ひどく傷付いたらしかった。
ああ、違う。
違う。
私は。
私、は。