第10章 はぁ?
「何で俺にそんな話しに来んだよ。」
不死川のクソ野郎は目をつり上げてイライラを隠さずに言った。
ハルナと気まずくなって数日、家が近いので休日の真昼にわざわざランチに誘ってやった。そんで全部話した。
「恋愛感情があるかないか知らねえが、聞いてて気持ち良くねェぞ。」
「だよね。僕もそう。」
「クソガキ。」
僕は空のお皿をすっと避けて、余計なものを排除する。
「僕、無駄が嫌いなんだよ。効率の悪いヤツはイライラする。優鈴さんみたいな省エネ人間は見ていて気持ちいいけど、霧雨さんみたいなドタドタしてる人は無理。」
「…お前大好きって言ってなかったか?」
「大好きだよ?霧雨さんは特別さ。」
水を一口含んで、ゆっくりと飲み込む。
「……何で好きなんだ?」
「霧雨さんは…。」
はるか昔の記憶。
今じゃない僕の記憶。
「霧雨さんは、どんな話しも聞いてくれる。受け入れてくれる。」
僕はそれが嬉しかった。
「僕に、居場所をくれた人。」
鬼殺隊に馴染めなかった僕を、生まれ変わってからも誰とも過去を共有できずに孤独を感じていた僕を、あの人は…。
「だから大好き。あんたにとられたのが本当にムカつく。霧雨さんは僕のヒーローなんだ。」
行儀は悪いが、頬杖をついた。
「ヒーローってみんなのものじゃない?独占しないでくれる?」
僕が指をさすと、不死川サンはその手を軽く叩いた。
「阿保。俺にとっちゃヒーローでも何でもないね。アイツはただの女の子だ。お前みたいに持ち上げるヤツがいるから、アイツが無茶しちまうんだよ。」
「ハッ、何それ。彼氏マウント?いいね~素敵。」
指をさすのはやめた。
「……じゃあ、僕みたいな何も持ってないヤツはさ、何でマウントとりゃいいんだろうね。」
「…。」
「惨めな気持ちって味わったことある?ないだろうね?」
僕は肩を落とした。
「鬼殺隊最弱って、言われるような僕と、あんたらは、違うもんね」
不死川のクソ野郎は、そこで水を飲んだ。
僕ら二人、やけに喉が乾くのがはやいみたいだ。