第10章 はぁ?
「僕は霧雨さんが大好きだよ。」
不死川サンはぎゅっとコップを握りしめた。
「…ほら、惨めだ。こんな思い一つ認められない。何でかな。恋でもなんでもないんだよ。何でかな。」
僕は頬杖をやめた。
「飛行機に恋をしたことはある?」
「…ねえな。」
「格好いいんだ。空を飛んで、放物線を描く…。美術館で素敵な絵に出会ったことは?」
「ねえな。」
「悲しいね。すごく良い気持ちでその日は眠れるよ。」
にこりと笑う。
「霧雨さんは、僕にとって飛行機と絵なんだ。」
不死川サンはコップから手を離した。
「………手には届かないとはじめからわかっている。」
そして、僕から目をそらした。
「一方的な好意でいいんだ。僕は感性が豊かなのかな。どこに行っても目に見えたものに惚れ惚れする。それをいつまでも眺めていたい。愛でていたい。」
「…アイツはお前にとって物か?」
「いいや。人間だ。素敵なアイドルに巡り会ったようなものだ。」
ちらり、と僕を見てくるのでそれを逃さず目を合わせた。
「あなたは邪魔なの。素敵な僕の芸術作品を汚す存在。本当なら僕が一人占めして愛でられるものを、独占した。だから僕はあなたが嫌いだ。」
「……………それは恋じゃねえのか。」
「しつこいな。好きは恋だけじゃないのに。僕は唯一無二の、彼女を愛しているの。おわかり?」
僕はにこりと笑った。
「愛に恋はいらない。ただひたすらに純に好き。恋はよこしまな心が入る。触れたい、触れられたい、想われたい…。でも僕は違う。僕がただ彼女を愛していたい。この気持ちだけで良い。
だから、彼女に恋心を持つあなたは不純物なの。大っ嫌いだよ。」
不死川サンは納得したかしないかわからないが、こう返した。
「俺はアイツが好きだよ。その心は不純なのか?」
不純だね。
不純だ。愛には不純だよ。そんな気持ちを持ってしまえば愛は恋に変わる。それだけは許せない。
だけど。
「純だね。」
不死川サンは、いよいよ訳がわからないと言うように頭を抱えた。
愛から見れば、それは不純さ。
けど、恋と見れば、真っ直ぐな、汚れのないまでの、純な心だと思うよ。
だからこそ。
僕は霧雨さんが大好きだ。
そして、不死川のクソ野郎は大嫌いだ。
愛という、この目で見れば。