第7章 僕だけに見えるもの
選別が終わり、僕はがむしゃらに頑張った。
頑張ったと、思いたかった。
「優鈴」
強い人間を食らえばより強くなれる。だから鬼は強い剣士を狙う。
僕の足元には血まみれの事切れた先生と、僕に覆い被さる兄弟子がいた。
鬼は太陽に溶けて消えていく。陽光が室内にさした。眩しかった。目を閉じたかった。そして、目を開けたら目の前の惨劇が消えれば良かったのに。
でも残念なことに、現実は変わらない。今目の前にあるものが全て。事実だ。
先生が鬼に襲われてると聞いて全力で走った。先生は怪我をして剣士をやめた人だ。きっと鬼を斬れない。
肩で息をして駆けつけた頃には全て終わっていて、鬼を斬りたかったけど、僕は癸。弱かった。できなかった。
兄弟子が駆けつけてきて、一緒に闘ってくれたけど、勝てなくて、僕を庇って。
「お前は柱になれ。」
何で。
何で笑ってる何で笑えるどうして話す。やめろ。今すぐ全部やめろ。はやくなんとかしろ。それで生きろ。
先生もお前も死んだら、僕は、どうしたらいい。
「優鈴、お前は優しいから…きっと……柱になって、たくさんの人を、助けてやって…」
ああぁ。声が弱くなる体が冷たくなる。そうしたら戻らない僕にしか見えないあいつらと一緒だ。
「皆には…見えないものが……見える、こ、と、に…自信、を持て……」
「兄さん」
「…俺は……弟を…」
にこり、と笑う。
僕は、涙しかでなかった。
「……信、じて、…いるよ…………」
がくん、と兄さんの力が抜ける。
俺は刀を落とした。
目の前に、どさりと倒れた。
人は簡単に死ぬ。
そして、二度とは戻らない。
僕は、三日ほど放心して、隠が駆けつけるまで、先生と兄弟子の死体をただ眺めていた。