第6章 霞とボタンと解放感
帰ってきた実弥はパジャマのボタンさえ開けっぴろげにして寝ていた。
「……。」
私はそんな実弥を横目に、裁縫箱を取り出した。
そろりそろりと近づき、眠る実弥のパジャマのボタンをしめる。
それから彼が外さないようにボタンを縫い付けてやった。
ふう、一仕事だ。
若干面倒だが、何だかとても好奇心がくすぐられるのでボタンを閉めてやった。
ていうか実弥がボタン閉めてるの初めて見たかもしれない。
私はこっそり写真を撮って保存した。
………コイツ、…まつ毛長っ。え…ッ。スウスウ言ってる。口ちょっと開いてるぅ…。
「寝顔が可愛い」
今まで何にも気づかなかったことに、私は心底驚いた。
「うおおおおおお!!」
実弥の叫び声で目が覚めた。まだ目覚ましは鳴っていない。
何だ、と思ってのそのそと起き上がると実弥がぐっと詰め寄ってきた。
「!!、ボタンとってくれ!!とれねェ!!!」
「ボタン~……?」
私は眠い目をこすって大きく欠伸をした。
「良いじゃん…まだ着替えなくって…。」
「違ェよそうじゃねえんだよ!!頼むよ!!」
実弥の必死な様子に、ふと昨晩のことを思い出した。
……犯人、私じゃん。
「……まあ落ち着きなよ。そんなに朝から叫ばないでよ…。」
「ふー、ふー。」
実弥は黙るかわりにやたらと息を荒くさせた。
私はもう面倒なのでボタンごととってやった。
解放感を得た実弥はさっきまでのが嘘のように笑った。
「おぉ、サンキュー。」
「………どういたしまして。」
そんなにかよ、と思いつつ私は苦笑した。
……縫い付けたのはちょっと悪かったな。