第4章 旧水柱は仲良くなれないー永遠ー
桜は春に咲く。
散るから不吉だとか言うけど、僕の父親はこう言っていた。
『散るけれど、次の春にはまた咲く。桜が咲かない春なんてのは、聞いたことがない。ハカナ、ハルナ。桜は永遠なんだよ。』
だから、自分の名字が好きだと。
……暗いな。何だここ。あぁ、僕死んだのか。
比較的安らかに死ねたな-…。
どーしよ。真っ暗だし。どこ行ったら良いの?
ごめんねとーさん、かーさん。僕死んじゃった。殴ってまで僕を止めようとしてくれたのにさぁ、鬼殺隊入っちゃうし。親不孝だったよね。
死んだハルナより、生きた父さんと母さんのために生きなきゃいけないってのはわかってたんだよ。
でも、父さんと母さんは生きてるけど、ハルナは死んだ。僕を殴ることも、怒鳴ることもできない。
『かわいそーじゃんか』
何回も何回も、父さんたちに言った。
『ハルナはあの世で一人泣いてるんだ!』
抱き締めてやりたい。頭を撫でて大丈夫って言いたい。
「ハルナ」
ああそうだ。見つけてやらないと。
「ハルナ、ハルナ」
僕の妹。
その時、明るい光が見えた。
それに手を伸ばす。
ぶわっ、と風が吹いて、一気に世界が明るくなった。
遠くに大きな桜が見えた。
けど、目の前に。
「天晴…!!」
「あらあら、安城さんじゃないの?猫かぶりやめたの?」
天晴がいた。
桜の木を指さした。
「行っておいで」
そう言われた。
「行くよ、行くけど、天晴は?」
「春風を待ってる」
ひゅるりと風が吹く。けれど、彼が待つのはこの春風ではない。
「ねえ、天晴。あのとき、名前を呼ばないように霧雨さんに言ったのは僕なの。」
天晴は笑っていた。
「ごめんなさい」
言えないと思ったことが言えた。
天晴は、大声で笑った。
「あんたのせいで死ぬような弱者じゃないわ、さっさと行きなさい!」
少しムカツクような物言いだったけれど、僕は確かに救われた。
「ありがと」
「ハイハイ」
天晴の横を通り抜ける。
全力で走った。体が軽かった。