第4章 旧水柱は仲良くなれないー永遠ー
上手くいかない。
頭が良いとか、天才とか、神童とか聞きあきたことを言われても、全然嬉しくない。
頭が良くてもどうにもならないことってあるし。
「ああ、思い出した!あの小さくて、丸くて、可愛い女の子でしょ?」
目の前の鬼が笑いながら言う。
瞳に書かれた文字には上弦の弐。久しぶりの再会となったわけだ。
どこにでもありそうな民家の、屋根の上で。とんでもないことが起きてるなんて、この家の住民は思わないだろうな。
「君とおなじ目をしていたよ!あの子の目はおいしかったなあ!君もおいしいのかな?でも男の子だしなあ…。」
あーあ、息吸っちゃった。土壇場で足りなかったなあ。
「ごめんねえ思い出すの遅くなっちゃって!君もう死んじゃうのにさぁ。」
うるさい。
だまれだまれ。
ポタポタと血が垂れる。出血が止まらない。
肩を斬られた。僕の体から、もう致死量は越える血が出ている。
「水、の…こきゅ」
「あれ!まだ立つの?嘘ぉ、あっ、もしかして柱だった?」
うるさい。自分が柱に満たないくらい弱いこととか、柱じゃない他の隊士に強い奴がいるとか、僕もう知ってんだよ。
僕がいることでそういう強い奴が水柱になれないとか、知ってる。
「だからこそ、僕はここで死ぬんだ!!!」
雫波紋突き。
とりあえず僕と同じく右肩やっといた。
「あはッ」
なに笑ってんだよ。
「その口閉じろよ」
滝壺。
あー、ダメだな。かたい。
僕は懐からバッと瓶を出して液体をぶっかけた。
「うわなにこれ、痛い」
藤の花から取れた毒と蜜を濃縮したやつだ。痛いに決まってる。けど、どんな雑魚鬼でもこれじゃ死なない。再生する。
「毒でも飲んで死ね」
首の半分で僕の刀は完璧に止まった。
奴が扇を振る。
一瞬、妹のハルナの笑顔が頭をよぎった。
「とっととくたばれ糞野郎」
凄まじい氷の風が吹き荒れ、上弦の弐は満足とでも言わんばかりに消えた。
もはや痛みも感じない。体に風穴を開けられたのに、驚くほど穏やかで。
あとは屋根から落ちて、骨とか折れて、ぐちゃぐちゃになって死ぬ。
「桜くん」
優しい声がして、トンと僕の体に当たって優しく包み込まれた。ぎゅっと後ろから僕を抱き締める。
「頑張りましたね、桜くん」