第18章 寂しい気持ち
それからしばらくたち、本部に用があったので産屋敷邸へ向かった。ここしばらくの報告書の束と、柱の出動要請がないかを確認して帰ろうとした。
が、お館様に呼び止められた。
しまった。事務仕事だけして顔は合わせないつもりだったのに。
この前会議を逃げ出したから気まずいんですよね。
「この前はごめんね。」
だが、謝ったのはお館様だった。
「突然あまねを連れてきて驚かせてしまった。事前に連絡しておくべきだったね。」
「…別に、私も桜くんも怒ってませんし、失礼なことをしたのは私たちの方です。」
ごめんなさい、となんとか言うことができた。
「いいんだよ。会議ができなかったからどこかで埋め合わせをしたいんだ。また連絡するね。」
「はい…」
流石に申し訳なくて頭を下げた。それでもうさっさと帰ろうと思ったのだが、お館様の話はまだ続いた。
「ハカナは元気かい?」
「……は?」
突拍子もなく彼の名前が出て来たので首を傾げた。
元気…というか、激務が続きすぎてぐちぐち言ってるけど、まあ…。
「元気ですよ。」
愚痴が吐き出せるのならきっと元気なんだろう。知りませんけど。
「ハカナにも君にも、無理に結婚を祝ってもらおうとは思っていないんだ。」
「……」
「だけどどうか、あまねを受け入れてほしい。」
その言葉の真意はわからない。けれど、お家の背負う呪いでこの人は長く生きられない。あまね様の方が、長生きなさるだろう。
「どこにもそんな余裕はありませんよ。」
分かってはいるけれど、私は本音で返した。
今、鬼殺隊は壊滅寸前だ。柱も二人。はっきり言って支えきれていない。被害は増えるばかり。上弦の被害だって報告されているのに体制が整わないからそちらに手が回せない。
「あの人は鬼殺隊のこと知ってるんですか?私が人を殺したこととか、桜くんの凄まじい復讐心とか。そういうの知ってもまだ私たちとよろしくやろうってんですか。」
つい語気が強くなってしまった。
…こんなことが言いたいわけじゃないのに、どうしてお館様を責めるようなことを話しているのだろうか。