第4章 微かな違和感
鞄を1度肩から下ろしカギを取り出す。それを上の鍵穴にさして右に回す。下の鍵穴にも同じことをもう1回。聞きなれたカチャッ、という音を聞いて取っ手を引く。真白に逆らわずドアが開いて、最初に思ったのは、
___!いい匂いがする…
ふわっと香ってきたなにかの匂いに、反射的に食べ物だと思う。しかも、嗅いだことのある匂い。玄関には両親の靴は当たり前のようにない。仕事人間の二人は絶対に昼間帰ってくるなんてことがないからだ。真白は自分のサンダルの隣に脱いだローファーを揃えて置き、気づく。同じように丁寧に揃えられた革靴が…ある。
__えっ、誰!?お父さん、なわけないし…
すかさずブレザーのポケットからスマホをとりだし、通報の用意をする。震える手でリビングへと続くレバーハンドルへ手を置いて、ゆっくりと力を込める。
「……、真白!おかえり!」
___え、
「律《りつ》く、…ん?」
淡い栗色だが少し落ち着いた暗めの髪の毛。シュッとした輪郭に、人懐こそうな顔のパーツたち。目尻をさげてふわっと笑うその感じに、ただ愕然と驚きながら、真白は持っていたスマホをゴトリ、と床に落とした。