第3章 最悪な出会い
やっと家に着いて、玄関に入った瞬間へたり込む。はぁ〜〜〜、と若干長めのため息をついて、億劫げに靴を脱ぐ。なんだかこのまま寝てしまいたい衝動があったが、早く身体を清めたいという想いの方が強く、なんとか脱衣所に向かう。
ポケットにしまったSuicaを一緒に洗濯してしまわないよう、きちんととりだしてから洗濯カゴに服をいれる。ふわっ、と香ってきた柑橘の匂いに、なんだか名残惜しい様な勿体ないような気持ちが沸き起こる。自分がよくわからず、その感情と一緒に無理やりカーディガンを洗濯機に押し込んだ。
下着姿になった自分が洗面台の鏡にうつる。くもりひとつない鏡が、真白のあられもない姿をうつしだしてぼんやり眺める。
自分じゃないような、自分のような、他人のような…
「現実逃避はやめよう、早くシャワー浴びてご飯食べて寝なきゃ身体の痛みがとれない…」
またひとつ溜まっていく疲労感を吐き出す様にため息をついて下着も脱ぐ。…と、鎖骨の自分では見ることの出来ないあたりに、何か模様を見た気がする。違和感のままにしたくなくて、鏡に近づいて覗き込む。
真っ赤なキスマークが、1つ。
真白の白い肌に華を散らしたみたいに、紅く色づいていた。
「…えっ!?」
反射的に手で覆う。そこにあるのが信じられなくてもう一度覗き込んでも….現実は変わらない。ついたキスマークも依然としてそこに存在した。