第13章 囚われたのは(トラファルガー・ロー)
「だれ…?」
声がした方を見れば先ほどの女医。
所狭く棚が並ぶさらに奥、追いやられたのであろう隅っこにソファセットが置かれ、蹲っていた。
「魔女屋か」
「……トラ、ファルガー?」
途切れがちに呟かれた名前。
弱々しいそれを変に感じたが、女医の様子も変だったため近寄ろうとした。
しかし近寄る前にソファの上で素早く距離を取られる。
遠目でちらりと見えた顔は赤く、息が荒かった。
「調子悪いなら誰かに任務代わって貰えよ」
明確に開けられた距離にそれ以上近づくことはせず、お節介だが医者としての言葉を放つ。
それに対して女医は「構わないで…」とだけ言って体を丸める。
愛想のねぇ女だとため息付きながら部屋から出ようとするが、不足している薬剤が見つかってないことを思い出す。
「おい魔女屋。このリストにある…おい!」
声をかけた女医は立ち上がっていたが、自分を支えることができずに体勢を崩す。
頭を打ちそうになる角度に慌てて近寄り手を伸ばして引き寄せた。
「ほらみろ、だから…っ」
抱き止める形になった女医を離そうとするが再び脈打つ心臓に息がつまった。
強烈なΩの甘い香り。間近で吸い込んだそれは思考を狂わすのには十分で、本能に抗えず再度その香りを肺一杯に吸い込んでしまった。