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ONE PIECE短編集

第1章 「愛してる」って最低の言葉(ロブ・ルッチ)


このまま殺されるのではないかというくらい長いキス。
半ば意識を失いかけたクロエにルッチは告げた。

最後の、愛の言葉を。



「愛してたじゃない……愛してる」



聞こえたとたんに腹部に走る激痛。口から溢れ出す紅い血を、綺麗に拭うかのように舐め取るルッチ。
言葉を発しようにも液体がのどを逆流し、その度に空気と一緒に肺に入り込む。
立てなくなり、苦しさと痛みで瞳からは涙が流れ落ちる。
焦点が思うように定まらず、瞳に移るのは紅く燃える街並み。
ルッチ、とかすれた声で鳴けばそっと背中に感じる彼の腕に必死に意識を集中する。

「まだ掴む力があるのか」

手探りで掴んだ彼の腕に、意識を失わんと爪を立てる。
痛みを感じる様子も無く、拒むことも出来るだろうにルッチは黙ってそれを受け入れた。
一箇所ではない腹部の傷口からはこれでもか、というくらいの夥しい血が流れる。
もはや黒かった彼のスーツはどす黒く、より闇を含んだ色へと染まる。

「ル……チ……」

少しでも多く彼の姿を見ておきたくて。
どんなに闇に染まってようと、自分の目の前にいる、優しく抱きとめてくれているのはまぎれもない愛しい人だから。
何故ここに来たのかと聞かれれば返答に困る。自分でも何故ここに来たのかはわからない。
だが、犯人が彼かもしれないと疑いながら、いなくなった彼に思いを馳せて過ごすのは真っ平ごめんだと思った。
そして、身体が動いていた。真実を求め、彼を求め。
だから殺されても文句もうらみもしない。置いていかれるならこうなってもいいと思った。
もうかなりキテるな、と内心笑う。
そして、此処に来て、彼を目の前にして、一番言いたかったことを、やっと舌に乗せた。

「あい…シ、てる……」

血に濡れた顔で、クロエはルッチに笑いかける。
痛いだろうに、それを感じさせない、綺麗な笑顔。
だがほんの数秒でそれも苦痛へと変わる。苦しそうに上下する胸をヒタと見つめ、
ルッチは横たえた彼女の顔を真上から見下ろし、彼女の視界を自分で覆う。

「最後に、その言葉を聞けてよかった。さよならだ、クロエ」

そっと苦しげに息を吐く唇に自分のを重ねる。先ほどの強引なものでもなく、優しい口付け。
指先はそっと、彼女の胸へとすべる。

そして、最後のキスを受け入れたと同時に、彼女の心臓は止まった。


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