第1章 「愛してる」って最低の言葉(ロブ・ルッチ)
ルッチ以外は皆クロエの後ろにある建物に入っていく。
昔、トムワーカーズという会社があった場所だ。ここにはフランキーという男がいる。
何故ここで待っていた、と聞かれれば、それは秘密と告げた。
いくら問答を繰り返してもクロエは頑として言わない。
強情な女だとルッチは笑った。
「お前、俺の前に現れて無事に事が終えると思っているのか」
「思ってないわ」
ここまでわかってて何故俺の前に出てきた、とルッチはクロエに近づきながら言った。
息がかかるほどに縮まった距離に、クロエは数回瞬きを繰り返す。
だが動じない、自分に殺されるかもしれないというのに肝の据わった表情や行動に、
ルッチはますます笑みを深くした。
「お前は本当に面白い女だった」
「・・・過去形なのね。何故?」
「それを聞くのか?わかるだろ」
殺すのね。
唇で伝えるとルッチは正解だ、というように鼻で笑う。
彼の肩に乗っていた真っ白な鳥、ハットリが羽音と共に飛び立つ。
衝撃で抜け落ちた羽根がクロエの髪に舞い落ちる。
髪に絡みつくように乗るその羽根を、ルッチは長い指でつまむ。
「ねぇ、一つ聞いて良い?」
「なんだ」
「……愛してた?」
羽根を掴む彼の手を握り、真っ黒な瞳に自分を映そうと見上げる。
バカなことを、と笑い飛ばされると思いもしたが、彼は答えてくれるとも思った。
彼は捕まれた手を握り返すと、より一層彼女の体を自分に密着させた。
「なに、すんの」
「愛してたか、と言ったな。それを聞いてどうする」
「……どうしようかな」
彼の握っていないほうの腕が頭の後ろにまわる。手も離し、空いた手を背中、腰にまわす。
「くっ…」
強すぎる締め付けに胸を圧迫され、彼の肩に頭を落とす。
苦しげに吐く息を直に感じ、ルッチがまた笑う。
この男は何回笑えば気が済むのか。私は何回笑われればいいのだろうか。
「最後に言い残すことは?」
「……アナタって最悪っ…ちょっと痛いじゃない」
「その最悪な男が好きなんだろ」
「最悪、最低…アンタなんっ……ぅっ…」
押し付けられる唇に言葉途切れて、悔しさに彼の背中を叩いた。
触れるだけでなくナカに入るものに息が上がり、途切れの無いキスに頭がクラクラと輪を描く。