第6章 プレゼント(ロブ・ルッチ)
「店主、その指輪を」
「ルッチ!!?」
何をするのか、と驚くクロエだが、ルッチは気にも留めずに店主と交渉を始める。
なにやら店主が「兄さん得したよ!ほかの店で買ったらこの倍は値が張るからね」と活き活きと話しているのが聞こえる。
だが、クロエには目の前の光景があまりにも衝撃的で固まった。
「袋は?」
「いらない」
まいどありー!と威勢のいい声を背に、ルッチはクロエの前に立った。
いまだ呆然としているクロエの手をとり、その掌に先ほどの指輪をのせる。
その重みで我に返ったクロエは、おろおろと視線を手元にやった。
「ル…ルッチ?」
「少しは女らしいものを身に付けろ。じゃないと今回の任務に支障が出る」
お前の役割は護衛者の娘という設定。
実際居る娘さんに化けるのだが、あまりにも女らしくないクロエに一抹の不安を感じた結果の行動なのだろうか。
彼の行動の意図が理解できないクロエだが、一つだけはっきりしていることがある。
それは、
(ルッチから……ルッチから指輪をプレゼントされた……)
思考が止まるには十分な出来事。
確かカリファから、指輪を贈ることには大きな意味があるのだ、と聞いていた気がする。
これは彼の気まぐれか、いや、気まぐれにしても、気が可笑しくなったのではないか。
私なんかに指輪なんぞ贈ってどうする!!?
女らしく、なら化粧や仕草でもどうとでもなるというのに。
「なにしてる。おいてくぞ」
「え、あ…うん」
完全に大人しくなったクロエ。
少し先を行く彼に追いつこうと踏み出したとき、背後に居た店主に呼び止められる。
「良かったね、お嬢ちゃん」
「え?」
「指輪をプレゼントされるってことは、少なからず相手に好意がある証拠だよ」
「こ…好意!!?」
そう。それも恋愛の情のね。と言われた言葉がやけに脳に響いた。