第1章 「愛してる」って最低の言葉(ロブ・ルッチ)
夕暮れの空に紅く燃え上がる炎。
空高く上がる煙に紛れて幾つかの影が空を飛ぶ。
こちらに向かってくるその物体を見つめながら、必死に心の中で願った。
アナタじゃありませんように
と。
でもその心届かず、描いてしまった最悪の展開へと進んでいく。
あぁ、自分の人生はここまでか、と麻痺した頭で考える。
ガレーラカンパニーが何者かに襲われ、世間では近頃この街にやってきた海賊の仕業だと言われていた。
だが、クロエにはそう思えなかった。
彼らと初日に接触した彼女は、とうてい罪も無い人を殺すような海賊には見えない、絶対に違うと直感で思った。
ならば誰が、市長であるアイスバーグを撃ったのか。誰が、誰もが愛する街に火を放ったのか。
その答えはクロエの心の中の声が告げていた。
彼らだ、と。
「ルッチ」
「……クロエ」
降り立った彼らは、黒いスーツに身を包み、日頃目にしてきたいでたちとはまったく違う。
目の前に立つ愛しい男も、今は別人を目の前にしているかのようだった。
いつも冷静でありながら人のこと、自分を一番に見ていてくれた瞳は、どこまでも凍りつき、黒い中には誰も映さない。
不器用ながらも優しく包んでくれた腕は、組まれたまま動かず、いつも見ている動作でも棘を感じる。
そしていつもは動かしもしない、だけど偶に囁いてくれる愛しい声は、もっとも残忍で、冷酷な言葉を持ってクロエを突き落とす。
「お前は頭がキレるやつだとは思っていたが、ここまでとは……」
感心したような、でもどこか見下したように感じとれる声にクロエは自分の予想通りだったと目を伏せた。
自分がいることに驚きを感じているらしく、後ろの、クロエも嫌と言うほど顔見知りの面子を振り返る。
「だからよしておけ、と言ったんじゃ。この子は頭が良すぎる。任務遂行の邪魔になったらどうするのだとあれほど言ったじゃろ」
「もう過ぎたことだ」
「じゃぁ、アナタが手を下すのね、ルッチ」
「あぁ」
一番ドックの職長でもあったカク。
アイスバーグの側でいつも彼を支えていた秘書のカリファ。
他には酒屋のブルーノまでいる。彼らが、真犯人。
「私の予想では、ここにニコ・ロビンもいるはずだったのだけれど」
「ほぉ、そこまで読んだか。ここにはいないが、お前の予想通りだ。流石だな」