第5章 お前が女として恥らえ(ロブ・ルッチ)
「待て。大人に対しての態度がどうもなってないようだ」
「・・・・・・・」
捕まれた腕。視線をたどると先ほどの教官。
クロエは感情のこもらない冷たい眼光で教官を見る。
だが腕を外そうと祓いもしない。ただ、にらむだけ。
「お前たちはやたらと上層部のお気に入りだそうだが、ここでの教官は俺だ。
お前たちを教育する責任があるんでね。それ以上無礼な態度を取るようだったらそれなりの処罰を課すぞ」
「「・・・・・・」」
煩ったそうに見やるルッチとクロエ。
次の瞬間。
「・・・っ!!?」
「あまり調子に乗らないほうがいい」
腕を捕まえていたはずのクロエに、逆に腕を捻上げられその場に倒れ伏す。
上からのしかかり、頭上にはルッチの殺気が落ちる。
息も絶え絶えな教官に、カクとカリファは「バカな男」と視線を向けるだけ。
「アタシより弱いのに何で偉そうなの?」
「お前の相手などしている暇などない」
一人一言そう言うと教官を放す。そしてクロエは一歩の跳躍でカクの隣に降り立つ。
お茶をこぼさぬように位置を移動させたカクは二人を見上げた。
「教官いじめもその辺にしておけ。早くシャワーを浴びてこんか」
「そうする」
「あぁ」
二人仲良く…とは言い難いが、言い合いをしながら二人は離れていった。
ライバルでもあり、お互いの最大の理解者であろう二人。
「あれで少しクロエに女として自覚が出たら良い関係になると思わない?」
「あの二人がか?」
「そうよ。まだ二人とも自覚はなさそうだけど」
「…ワシにはそうは見えんがなぁ」
「ふふ。女のほうが鋭いのよ」
「クロエを除いて、じゃろ」
「えぇ、もちろん」
もう少し自分を女として見たほうがいいのではないかと周りから心配されるクロエ。
彼女は本当に性別を意識しない。だからルッチとの戦闘でも生傷が絶えず、それをカリファのように跡を残さずに綺麗に直そうともしない。
当然傷跡が残りそうな乱雑な処置の仕方なのだが、治癒能力が高い彼女は傷跡はまったく残らない。
いつも羨ましそうに笑うカリファが、腹いせに傷をガーゼの上から押したりしているのをたまに見る。
「そういえば二人はシャワーに向かったのよね?」
「あぁ。…また騒ぎが起きるな」
関わらないように二人はシャワー室とは反対の方向へと戻った。