第5章 お前が女として恥らえ(ロブ・ルッチ)
「あ、終わったようね」
「勝利は・・・」
土煙がだんだんと薄れる。止まった二人の気配をたどり、目を凝らす。
丁度視線を真っ直ぐと伸ばし、少し離れた場所に二人はいた。
木を背にする者と、その人物に刃を向ける人。
「ルッチの勝ち、か」
「初めてね、二連勝の記録は」
ルッチに木に押さえつけられ、首元に刃を当てられているクロエ。
だが戦意を失ったわけではないクロエの手はルッチのわき腹に刀を当てている。
動けばどちらとも負傷するが、死ぬ確立が多いのはクロエ。勝敗はルッチに上がる。
「弱くなったんじゃねぇのか」
「戯言。調子にのるな、ルッチ」
その状態のまま睨みを効かすクロエとルッチ。
戦闘が終わった今としても、まだビリビリとした空気が流れている。
そこへやってきたのが政府の人間、一応彼らの教官という立場にいる人間だ。
「やっと終わったみたいだな。今回はどっちだ」
「ルッチよ。早く此処から退いた方がいいわ、アナタ」
カリファが静かに答え、早くこの場から彼が立ち去れ、と思う。
だが気の強い、そしてプライドの高いこの教官は、
上司に対して同等に接してくる、または見下してくる態度に口元を歪める。
教官はそのまま、まだ木の根元にいる二人に近づいていく。
後ろでカクが「アイツは死にたいのかのう・・・」と呟いた。
「おいおい、何時までじゃれついてるつもりだ、ルッチ、クロエ」
「「・・・・・・・」」
お互いを無言でにらみ合っていた二人は、ゆっくりとその視線を話しかけてきた男に向けた。
一気に二人分の殺気が男へと注がれ、一瞬男は息が詰まる。
「誰に話しかけている」
「気安く近寄るな」
ルッチは煩そうに、クロエは全身から毛嫌いする。
男は12そこらの子どもにいいように言われ、額に青筋を立てる。
「今回の勝負は俺の勝ちだ」
「・・・・・・フン。そういうことにしておいてやるよ」
「事実だ。お前には負けん」
「数回負けてるくせに」
教官そっちのけで、二人は立ちあがって土などを払う。
我慢しているのか、それとも怖気ついているのか微動だにしない教官の横を通り、カクとカリファの座る場所へと近寄っていった。