第1章 ※契り※
「私に・・・、隠し事が通用するとでも・・・」
顎をとらえたまま、視線を向かわせる。低く囁く声は静かだが、獲物に飛びかかる寸前の獣のごとき獰猛さを秘めていた。
「お前のすべてを知っているのは・・・、私だけなのだからな・・・」
「・・・っ」
見つめ合ったまま、二人は床に倒れ込んだ。
「キリカ・・・」
噛みつくように口づけながら、キリカの着衣を剥いでいく。キリカも激しい口づけを受けながら、黒死牟の帯の結び目を探る。
「巌勝様・・・」
幾度めかの口づけの後、キリカが黒死牟を呼んだ。
頬に添えられた指を、己の唇に押し当てる。
「・・・・」
黒死牟の顔を見つめたまま、指を口に含んだ。先ほど、自分がされたように。
絡み付かせた桃色の舌を上から下へ。下から上へ。ちゅっ、と濡れた音を立てながら、ゆっくり、ねぶりまわす。
「キリカっ・・・」
掠れた声を漏らす黒死牟に、キリカがちらりと濡れた眼差しを送る。
「・・・さっきの、お返しです・・・」
「・・・・」
「お嫌でしたか・・・」
キリカが黒死牟の耳元で囁いた。蠱惑的な眼差しと囁き。黒死牟は己の理性の錠前が易々と外されていくのを、はっきりと感じていた。
「んっ」
黒死牟の長い指を奥まで受け入れた花弁が、しとどに蜜を垂らしていた。指が弧を描く度に、濡れた音が響く。
「どうした・・・?こんなに濡らして・・・」
意地の悪い囁きに耳朶をなぞられ、キリカの身体が、ひくりと跳ねた。
たった一晩、独り寝をしただけなのに身も心も餓えたように黒死牟を欲していた。少し触れられただけで、身体中が疼いてしまう。
「そんなに・・・、独り寝が寂しかったのか・・・」
「んっ、それは・・・」
「違うのか・・・」
「んぁっ・・・、あぁっ」
折り曲げられた指が、キリカの哭き所を擦りあげる。ひときわ大きな声をキリカが上げれば、黒死牟は満足げに唇を歪めた。
「私は・・・、お前を抱きたくて・・・、堪らなかった・・・」