第3章 ※貴方がほしいもの、私がほしいもの※
「巌勝様が強すぎるんです・・・、私、必死に覚えたんですよ」
悄然とした口調のキリカに、黒死牟は声を出さずに苦笑すした。
「人であった頃から囲碁は好んで打っていたからな・・・」
まるで、「お前とは年季が違う」と言いたげな口調に、キリカはますます悄気てしまう。自信満々で挑んだ自分が恥ずかしくてたまらない。
「だが・・・、始めて数日足らずであそこまで上達するとは驚いたぞ・・・」
「本当ですか・・・?」
「ああ・・・、本当だ・・・。此方も教えがいがあると言うもの・・・。これからも励むがよい・・・」
実際、キリカの上達ぶりには目を見張るものがあった。基本的な打ち方を教わっている最中も一言一句聞き漏らすまいと真剣な面差しで耳を傾け、分からない事は理解するまで幾度も質問してきた。
「嬉しいです。また、勝負していただけますか?」
誉められたのがよほど嬉しかったのだろう。惣闇色の瞳をきらきらと輝かせながらキリカは満面の笑みをたたえていた。
「勿論だ・・・」
「私、頑張りますからね。必ず、巌勝様に勝ってみせますから!」
「楽しみな事だ・・・」
言って、キリカの頬に手を当てた。額に口付ける。
「巌勝様・・・」
押し当てられた唇の感触が心地好くて、キリカは目蓋を閉ざした。
髪や頬、目蓋、唇にゆっくりとした口付けを受けながら黒死牟の背に手を回した。
「そう言えば・・・」
「・・・?」
「欲しいものがあったのでないか・・・?」
「あっ・・・、でも、いいです。負けてしまいましたから・・・」
素直に「あります」と言い掛けたキリカが慌てて口をつぐんだ。確かに欲しいものはある。だが、勝負に負けてしまったのだ。ねだる資格などない。
「私はお前から欲しいものを確かに貰った・・・。だから、その礼をせねばならぬ・・・」
欲しいもの。そう言われたキリカは瞬時に顔を耳まで赤く染め上げた。瞬時に脳裡に浮かんだものは黒死牟の端正な面。鍛え抜かれた、雄々しい肉体。そして・・・。