第3章 ※貴方がほしいもの、私がほしいもの※
「・・・・・」
ほんの少しの間、意識を手放していたようだ。交わりの後の気だるさに身を任せていたキリカであったが、ふと、眉をひそめた。しばしの間、考え込むような険しい面持ちになる。
(悔しい・・・)
寝る間を惜しんで囲碁を覚えたのに負けてしまったのだ。思い出すと悔しくて堪らない。甘やかな快楽の余韻は何処へやら、キリカの身も心も、今や鬱々と沈み込んでいた。
(一生懸命、覚えたのに何が駄目だったのかしら・・・?)
自信満々で勝負を挑んだというのに完膚なきまでに叩きのめされてしまった。
悔しさに、きゅっ、と、唇を噛んだ。
「如何した・・・?」
腕の中の愛おしい存在の僅かな変化も見逃さないとばかりに、黒死牟がキリカに問い掛けてきた。
「・・・悔しいです・・・」
「何が、だ・・・?」
「囲碁です。まさか負けるとは思いませんでした・・・」
「可愛い奴だ・・・、私に勝てるとでも思ったか・・・」
黒死牟は腕の中のキリカの身体を更に引き寄せた。惣闇色の髪を一房、手に取る。
「一生懸命覚えたんですよ。それなのに・・・」
心底、悔しそうに呟くと、キリカはそれきり俯いてしまった。
「キリカ・・・」
「・・・・」
返事は返ってこない。拗ねたキリカがだんまりを決め込むのはいつもの事だ。構わず、黒死牟は続けた。
「だが、筋は悪くない・・・。そのうち・・・、勝てるかもしれぬぞ・・・」
キリカの髪に指を絡めながら囁くように話しかける。
「いつでも・・・、相手をしてやろう・・・」
「・・・・」
キリカは押し黙ったままだ。視線すら合わせようとしない。
「まだ・・・、拗ねておるのか・・・・」
「拗ねてなどおりません。ただ・・・」
「・・・?」
吐息のようなか細い声に、黒死牟は耳をそばだてた。