第2章 暁降ちの眠り姫
「う・・・、ん・・・?」
黒死牟の胸の裡など知るはずもないキリカは首を巡らせた。仰向けになり、目を閉じる。
眠りの淵に沈んでいく途中で違和感に気付いた。自分の枕にしては固い。此処は何処だろうか。
「・・・あ、れ・・・?」
「目を覚ましたか・・・」
寝起きの回らない口で呟けば、頭上からほんの少し呆れたような声が降ってきた。
「・・みちかつさま・・・、えっ、あのっ・・・」
黒死牟の膝を枕にして寝ていたと気付くまで、寝起きの頭は数瞬の時を必要とした。
そして。覚醒しきらぬまま、記憶を探り始めた。
黒死牟の隣りに座し、庭を眺めていたのは覚えている。肩にもたれ掛かり、指を絡ませ合い、とりとめない話に興じながら。
しかし。そこで記憶の糸は、ぷつりと途絶えていた。
いつ、寝てしまったのか。もしかしたら話の途中で寝てしまったのではないか。全く思い出せない。
「私・・・、どのぐらい寝ていたんですか?」
「四半刻ぐらいか・・・。よく寝ておったぞ・・・」
「そんなに・・・。あっ、申し訳ありません。足は痺れていませんか?すぐに退きますから・・・」
「案ずるな・・・、何ともない・・・」
「申し訳ありません」と重ねて詫び、慌てて飛び起きようとしたキリカであったが、その身体は易々と抱き留められてしまう。
「巌勝様・・・」
再び、膝の上に寝かされる。
「眠いのであろう・・・、もう少し休むが良い・・・」
「ですが・・・」
黒死牟がキリカの顔を覗き込んだ。視線も口調も労るように優しい。
「この雨では外にも出れぬ・・・。お前も用事が無いのであれば、こうしていたいのだが・・・」
続けて「駄目か・・・?」と囁くように問われ、キリカの鼓動が跳ね上がる。
「いいえ・・・」
無論、断る理由など何処にもない。
「では・・・、決まりだな・・・」
黒死牟が眼を細めた。キリカの髪に手のひらを滑らせる。瞳と同じ、惣闇色の髪。上質の絹のような手触りに似たそれを、黒死牟は幾度も慈しむように撫でた。