第1章 転校生の彼女
正直もう見てるだけで満足状態なのに、彼女はこちらの方を見て話しかけてきた。
「森山君ってポジションどこなの?」
「!?あ、えーっと、シューティングガード…」
「へぇ、前のチームじゃ秋月先輩だったなー」
「…つか、お前どこの高校から来たんだよ」
それは素朴な疑問だった。
彼女はどこの高校から来たのかは言っていない。
秋田から、その一言だった。
「いいじゃん、どこだって」
「それも…、そうだな」
そのどこか棘のある言い方に引っかかったが、楽しいお喋りはここまでのようだ。
鐘が鳴り、帰りのHRが終わり、彼女とは玄関先まで一緒だった。
「んじゃねー、春乃ー」
「ばいばーい」
「また明日ねー、鳴ちゃん、奈穂ちゃんー」
雪国から来たとあって結構な薄着だ。それでも海に面したこの学校じゃあの薄着だと転校早々風邪を引いて休まれたらたまったもんじゃない。
「あ、あのさ、小咲…さん」
「ん?」
「これ」
「え、いいよいいよー、そんな寒くないし」
「駄目だって、女の子は体冷やしたら」
半ば強引に自分のマフラーを巻く時に気付く。
座って話すことが多くて気付かなかったけど、あまり背は高くない。自然と俺を見上げる形になる。
「よし」
「…ふふ、ありがとう森山君。明日返すね」
「うん。っていうか、帰らないの?」
「今日は車。…あ、あのさ、森山君って明日ひま?」
「え?!う、うん!暇!!超暇!!」
「じゃあちょっと付き合って欲しいんだけど…あ、でも明日って入試だよね、入試明け、ちょっと付き合ってくれる?」
「オレでいいならもちろん!」
「やった、ありがとう。…!ごめん、迎え来たっぽいから先に行くね」
そう言ってひと足先に校門を通り抜けて行った。
神様、運命の出会いに感謝します。