第6章 練習試合と彼女
試合再開してからの先制点は笠松の3Pだった。
相手は中を固めてきてのほぼボックスワンという感じだ。
「ま、そりゃウチでズバ抜けてすげぇのは黄瀬だけどさぁ…海常のレギュラー、舐められんのは腹立つね」
「そりゃね。でも…じわじわ点差が開いてきた」
理由は黒子君のパスが回らなくなってきたことにあるだろう。
上から見てても時折見失うほどの影の薄さ。
パス回しに特化した選手。帝光の幻の6人目。
他とは違う異質の強さ。
「でもコレ、見えたら意味ないんだろうね」
「は?どういう意味だよ」
「そのままだよ」
説明しようと思った瞬間。相手のあの大きい子が笑い出した。
えぇと、10番の…前に黄瀬君と1on1してた子。
話を聞くにアメリカからの帰国子女だったらしい。
「へー、アイツ本場仕込だったんだ」
「みたいだね…でも、まぁあんだけ言うんだし第2Qでお手並み拝見ってとこかな」
2分の休憩中は周りがどっちが勝つかとかそういう話で盛り上がっていた。
私と榛名は梓と桜を見ながら少し安心していた。
「ベンチにいなくて良かったわ…」
「うん…」
選手がどなられてると自分まで怒鳴られてる気分になる。
今日はいつも以上に怒鳴られているのでなおさらだ。
梓は慣れてるみたいだが桜は一々ビビってるのが可哀想で仕方ない。
「あぁ、そうだ。それで見えたら意味ないってどういうことだよ」
「立体視だよ。試合中に物事を立体的に見れる人がいたら意味ないってこと」
「あ…あー、そっか。見えるんだったら止めれるもんな」
「うん。ウチにはそこまで目の良いやつは居ないけどこの先彼らの天敵になるのは間違いないだろうね」
休憩が終わり第2Qが始まった。
誠凛の様子を見るに策はあるらしい。
何が変わったのか、それはすぐに分かった。
「10番と11番の連携…?」
彼らの連携プレーで黄瀬君が抜かれてそのままシュートが決まる。
「…厄介だな」
「え、そんなに違うの?」
「そりゃ違ぇよ。今まで全部1人で処理してきたとこに一人パスの中継役が混ざったんだ。お互いに選択肢が増えるんだから攻撃パターンだって増える」
珍しく榛名が真面目だと思ったのは言わないでおく。
いつの間にか3点差。少しづつ差が縮まっている。
どうなるものかと見ていたら黄瀬君のマークが変わった。
「…相手になると思うか?」
「正直ならない」