第5章 黄瀬君と私
黄瀬君が馬鹿なことを言ったあとで。
「黄瀬君、」
「なん………いぃってぇ!!なんで蹴るんスかぁ!」
後ろから思いっきり蹴ってやった。
まぁ私の身長じゃどう頑張っても膝かっくん程度が限界だ。
「あんま調子乗らない。すいません馬鹿な子で。馬鹿なんです。
ほんっとうにすいません…」
予想した通り私は頭を下げなくちゃいけなかった。
まさかこんな馬鹿なことを言うと思わなかった。
「ちょ、馬鹿馬鹿言いすぎ!」
「黙れ馬鹿」
「は、はい…」
「本当なら菓子折り一つ持って来るべきなんでしょうけど…、
ひとまず今日はこれで失礼しますね。お邪魔してすいませんでした」
無理やり黄瀬君の腕を引いて体育館を出ていく。
全く、頭が痛いったらない。
「…誠凛、強そうだね」
「?そうッスかねぇ」
「地力がしっかりしてるっていうか…2年生主体でアレは強いと思うなぁ」
「…先輩ちゃんと見てたんスか」
「うん。一応マネジの仕事もしなくちゃかなーって思って」
率直な話、2年生主体の新設高校でアレは強い。というレベル。
正直全体のレベルで言うならうちの方が上だと思う。
よく監督も練習試合をお受けしたものだ。
「まぁ黒子っちの凄さは試合じゃないと分かんないッスよ!
ぜーったいびっくりするからね!」
「もうすでに影の薄さにはびっくりしてるよ…」
あの一瞬。何か言いたげだった彼のことを思い出す。
突然目の前に現れた、彼のことを。
あの時一体何が言いたかったんだろう。
「…考えても仕方ないかぁ」
「?何を??」
「黄瀬君にはあんまり関係ないこと。…わざわざ送ってくれてありがとう。家の方向多分違うでしょ」
「え…んー、まぁ違うけど付き合ってもらっちゃったし。俺、絶対待ち合わせ場所いないって思ったんスよ」
「待たせていい理由にはならないけどね」
黄瀬涼太。彼は馬鹿で調子に乗ってて、すごい時々引っ叩きたくなるけど基本的には良い子できっとバスケが好きで話していてとても楽しい年下の男の子。
「また一緒に出掛けようね、黄瀬君」
今度はみんな一緒だともっと楽しそうだ。