第5章 黄瀬君と私
やってきました、誠凛高校。
東京というのは案外近くて、なんていうか、行き来できる距離なんだなと。
「ね、暫く手繋いでもらってもいいッスか?」
「なんでまた」
「早い話、女の子避け」
「高くつくけど」
「う…わ、分かりました」
そんな冗談はおいといてごく普通に手を繋いだまま歩くとこの効果は絶大だったらしい。
耳には入れたくなかったことも多かったのでその辺は聞かなかったことにしたけど。
「体育館はー…っと」
「あ、俺聞いてくるっス!」
「うん」
元気によく走るやつだ。
黄瀬君が女子に話しかけに行ったところで囲まれるのは目に見える。
「すいません、いいですか?」
自分で聞くしかないわけだ。
「バスケ部の居る体育館の場所教えて欲しいんですけど…」
無論、女子に聞いても意味がないので男子に聞くのだけれど。
彼らは丁寧にも入口近くまで案内してくれたのでお礼を言ってからそっと中に入って練習を見せてもらう。
「おぉ…」
第一印象は、少ない、だった。
IHに毎年出場している強豪クラスの海常と比べるのはおかしな話かもしれないけれど選手とか、マネジとか、とにかく人が少ない。
選手を見ていると1人だけズバ抜けて大きい子が居た。190はあるだろう。
他の選手は170~180あるかないかぐらいか。
「ごめーん、春乃先輩っ!ちょっと女子に囲まれ…ってか追いかけられちゃって…」
「…はぁ」
気が付くと彼の後ろには女子の長蛇の列。
モデルというかイケメンというのはなかなか大変そうだ。
一体全体、保護者としてどうしようかと考えていると向こうの人たちもこちらに気付いたようだ。
「あーもー…こんなつもりじゃなかったんだけど…」
じゃあどういうつもりだったんだ。
「……お久しぶりです」
「スイマセン…マジであの…え~と…てゆーか5分待ってもらっていいスか?」
「駄目。3分」
「えぇ?!」
半泣きになる彼を横目に、一足早く自己紹介をすることにした。