第4章 新学年と彼女
駅前に着いてようやく手を繋がれる。
遅いと言おうと思ったがそれはやめておこう。
「すっかり遅くなっちゃったね。大丈夫?」
「このくらいなら平気。それに暫くお母さん帰って来ないし」
「仕事?」
「うん。暫くは職場で缶詰…うちのお母さん、デザイナーなんだ。
ファッションとかポスターとか、なんでもやってるの。
今日みたいに家に帰って来ないとかもザラなんだよね」
働くのが好きっていうかワーカーホリックっていうか。
今は子供向けの服だったか。いつだって楽しそうだ。
「え、じゃあお弁当とかは?自分?」
「うん。親が不仲になって以来全部自分のことは自分でするようにしたから」
料理も洗濯も裁縫も。全部義務感で始めたことだ。
自分でしないと生きていけない。心のどこかで思ったのもある。
「でも、今は好きだよ。全部楽しいの」
きっと私はその内本当に彼を好きになる日が来るかもしれない。
心の奥底から一緒に居たいと願うかもしれない。
でも今はまだ義務感での恋愛だ。恋人だ。
「それじゃ、また明日ね」
手を振って電車を降りて家まで歩き始める。
そう。私と彼の関係は"恋人ごっこ"。ごっこ遊びだ。
彼が私を心から好きだなんて確証もないし。
滑稽だとも思う。お互いに好意があっても、好きではあっても、愛してはいないのに恋人だなんていうのは。
「偽物なんだよ」
フィクションではないけど、本物ではない。
偽物の恋人同士が私たちだ。