第1章 転校生の彼女
彼女からお願いをされた。そう俺は認識した。
そのお願いはとても小さなもので。
しかしそこから得るものはとても大きかった。
でも一番の収穫は。家が案外近くで。
「な、なに、」
そしてそれは今この状況だと思う。
「マフラー、昨日借りたの」
片手を掴まれて、いる。
白くて、なめらかで、綺麗な。女の子の手。
「はい。私、別に寒くはないから」
「え、あぁ、うん」
精一杯、背伸びをして俺の首に巻いてくれた。
少しだけ彼女の匂いがした気がする。
「また明日ね、森山君」
そう彼女は笑うと俺とは逆方向に向かって走り出していた。
俺はと言えば、少しだけ立ち止まっていて。
そのまま今度は自分の家の方向へ歩き出した。
また明日、という言葉とその笑顔を思い出しながら。