第1章 転校生の彼女
放課後。
私は森山君のことを体育館の入り口で待っていた。
「ごめん、待った?」
「いや、平気。…あのさ、えーっと、その………」
物凄く言いにくい。っていうか出来るならまぁ言いたくはない。
それでも、私は言わなくてはいけない。
「電車の乗り方教えてください…」
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥という。
思わずというか私は当然というように俯いた。
「うん、いいよ?」
「!ほ、本当?」
「うん。だって断る理由ないし」
「あ、ありがとうございます…!」
そう、まずは説明しよう。
私は小・中学校時代は徒歩で学校まで通っていた。
高校はそもそも全寮制だった。
出掛けることはあまりなかったし大体バスとか自転車で事足りた。
まぁ早い話。使ったことがないということだ。
「本当に田舎者でお恥ずかしい限り…」
「いいって、なんか素朴な感じで可愛いよ」
「素朴って言えば聞こえはいいかもしれないけど…」
要は本当に田舎者。
そんな私を森山君は別に笑いもしなかった。
「で、ここからどこまで?」
「えーっと…ここ……駅名読めなくてごめん…」
「綺麗な字だね。ここなら俺も途中まで一緒だよ」
それが嘘か本当かは分からないけど。
森山君は、とてもいい人だ。
一緒に切符を買って、一緒に電車に乗って。
あろうことか、一緒に降りてくれた。
「いいの、一緒に降りちゃって」
「一駅分くらいなら走って帰れるし。平気だよ」
「…ありがとう、森山君」
駅を出て、手を振りかけた。
「あ、まって森山君!」
歩き始めた彼の手を掴んで私は急いで鞄の中から借りたマフラーを取り出した。