第3章 みっかめ
何処にでもいい。ここに居たくない。この家にいたくない。会いたくない。
いてもたってもいられなくなって、鞄に数日過ごせる分の着替えと、大切なものを詰め込んだ。
指輪も外し、ショーツもテーブルの上に置く。
玄関を開けて部屋を一瞥すると、「ここで暮らしていくんだね。よろしくお願いします。」
と過去の私が笑って見せた。
心を揺さぶるわけでもなく、目を閉じると彼方に消える。
君が信じたその生活は、3年目に終わるんですよ。
もう、振り返ることはなく後にした。
行く宛てがある訳じゃない。
紅は…ダメだ。この間あんな相談をしたばかりだ。
行けるわけない。またアスマくんの事を思い出せてしまうかもしれない。
幸せを願ってると言ってくれた親友に、頼るという選択肢はその気持ちを無下にしている気がした。
そうだ、アンコ…。アンコなら今日非番だったはず。誰かと一緒にいたい。
彼女ならいきなりでも泊めてくれる。
1人でいると大きなナニカに今にも押しつぶされそうな予感がした。
死神に首元で鎌を当てられたまま、歩いている錯覚に陥る。
背中がやけに重かった。
家では出なかった涙が、つぅっと頬を流れる。
我慢だ、今ここで泣いちゃいけない。まだ人通りもあるじゃないか。
アンコの家がある裏路地に入ると肩を叩かれた。
「さん!」
『…?アズミくん』