第5章 ※Ever green!④
ぼんやりと光る月を見上げながら、グリーンは静かに笑った。
「あいつらに教える前に、いちばんにナナに見せたかったんだよ」
月明かりの下で見るグリーンの笑顔に、思わず見とれてしまう。幻想的な夜景は、彼の存在をより一層、私の心に焼き付ける。
「けど、すぐ実現しちまったな」
グリーンは、振り返って私を見つめた。刹那、時間が止まったかのように、短い沈黙がふたりの間に流れる。
なにか言葉を返したい。想いを伝えたい。けれど、この溢れる想いを表現する言葉なんて思いつかないし、きっといくらあったってたりない。
「——ありがとう。嬉しい」
なんて、こんな時でさえありふれた言葉しか告げられない自分がもどかしい。
「感想はそれだけかよ」
やれやれといった風に肩をすくめたと思ったら、突然抱き寄せられ、腕の中に閉じ込められた。
グリーンの香りに包み込まれ、目を閉じると、彼の温かさが全身に染み込むように感じた。やっぱり慣れないよ、と胸中で呟く。何度抱きしめられても、触れ合っても、その度に切なさが溢れ、苦しくなってしまう。
そっと、私もグリーンの背中に腕を回した。
「本当に嬉しいのに、うまく言葉が浮かばないの…」
「分かってる。そんな不器用なとこがお前らしいよな」
クスクスと声を抑えて笑っている。
「ごめんね…」
「そう思うならしばらくこのままでいさせろ」
こくりと頷き、グリーンに身体を寄せた。
なんだかまた泣いてしまいそうだ。
ずっと想い続けていた。叶うはずのない恋だとあきらめていたのに、大好きな人が私のすべてを包み込んでくれている。
グリーンの温もりを感じながら、これまでの不安や後悔が、一気に溶けていくような気がした。
今までの失敗だらけだった自分や、消したい過去さえも、まるで赦されるような気がして、心が少しずつ解けてゆく。すべてを認められているような、そんな心地になる。