第17章 ペパーミントラブ
ペパーくんが言うには、料理において“香り”はとても大切らしい。香りは味より先に感じるものであり、口に運ぶ前に「美味しそう」と脳に期待をさせるのが、食欲をそそる上で大事だとかなんとか。
たしかに、ヒナギク博士に淹れてもらった紅茶も、まず始めに香りを楽しんだっけ。
「まずはこの独特な匂いをどうするかだな。強めのスパイスで誤魔化すだけじゃあ余計ゲテモノになっちまう」
鋭い目つきで食材を見下ろし、顎に手を添えて思案するペパーくん。
「あの、ちょっといい?」
真剣に悩んでいるのに水を差さないか、ドキドキしながら話しかけた。
「……なんだ?」
ほんの一瞬、ペパーくんの視線がこちらに向く。研ぎたての刃みたいに冴えた視線は、職人の雰囲気を醸し出している。
「あのね…トゲちゃんはフルーツオレとか甘いものが好きみたい。甘い料理にできるかな?」
「そうだな、好みは大事だよな。ならフルーツサンドにするか!」
さっきまでの硬派な雰囲気が少し溶け、白い歯を見せながら親指を立てる。するとペパーくんは思いついたように、たくさん並ぶ食材の中から、フルーツやきのみ、バターやシロップを手早く選び、キッチンカウンターに並べ始めた。
「どりゃあああ!」
叫び声とともに、ものすごい勢いで食材を洗うペパーくん。その手際の良さは、一朝一夕で身につくものではない。普段から料理をしていることが、テキパキとした動作から伝わってくる。
「え、N、私たちも手伝おう!」
「そうだね」
ペパーくんの隣で、Nは見よう見まねでフルーツを洗い、私はそれを拭いて平ざるに並べた。