第17章 ペパーミントラブ
パシオミントは、思った通り森の茂みですぐに発見できた。青い葉に、葉脈の赤が血管のように浮かんでいて、手に取ればクセのあるミントの香りがツンと鼻先を掠めた。
さっそく採取して研究所に戻ると、博士はすぐにミントの調合を始めた。私は博士の指示で、消化に負担がかからないよう、胃薬の効果がある薬草と合わせ、煮出して飲み薬にした。
ミントの成分には治癒効果があり、体内の毒素を排出し、疲労回復や滋養強壮といった効能があるらしい。博士も体調を崩した時は紅茶に混ぜて飲んでいるんだとかなんとか。もちろん、ポケモンへの効果も実証済みで、パシオのポケモンセンターでは、怪我の治りが遅い子や、食欲をなくしている子に与えているそうだ。
「さぁ、飲んでごらん」
Nがスプーンで薬を掬い、トゲピーの口元へと運ぶ。スプーン上のミントは赤と青が混ざってどくどくしい紫色をしている。お世辞にもいい色とは言えないのに加え、匂いも強烈で、各種ミントと漢方薬とその辺の雑草を混ぜたような禍々しい香りを漂わせている。
案の定、トゲピーはくんくんしてすぐにぷいと顔を背けてしまった。当然と言えば当然の反応だ。私がポケモンでもそうする。
その後、Nとヒナギク博士が交代で試したけれど、トゲピーは頑なに拒否し続けた。
ならば今度は、トゲピーが好物だというミックスオレに混ぜてみる。しかし、これもトゲピーにはあっさりと見破られ、失敗に終わった。
「もともと食欲がなかったし、今のこの子に薬を飲ませるのは無理そうね」
ヒナギク博士は、残念そうにため息をこぼした。
「とても嫌がっているので、これ以上はやめておいたほうがいいですね」
Nはそう言いながら、ミントの匂いにげんなりしているトゲピーを心配そうに見つめている。
衰弱している小さな身体に無理をさせるのは、確かにかわいそうだと私も思った。