第17章 ペパーミントラブ
博士が言うには、トゲピーはダイマックスの実験の後遺症で、過度なストレスによる食欲不振が続いているらしい。心に深いダメージを負ってしまい、食べものを受け付けないだけでなく、人そのものを怖がるようになってしまっているという。
世話をしている博士にはだいぶ馴れてきたようだけど、今の状態でほかの人に譲るのは危険だと判断し、しばらくは研究所でケアを続けるそうだ。
「それに、この子のようにダイマックスが合わないポケモンが他にもいるかもしれないからね。ダイマックスにおけるポケモンへの影響や負荷を調査する上でも、研究所での経過観察が必要だと、ソニアとも話し合って判断したの」
ソファの上で昼寝を始めたトゲピーを見やり、博士はフッと笑みを浮かべる。
「でも、人前でお昼寝もできるぐらいにはリラックスしてるみたい。あなたたちだから安心しているのかしらね」
「私は人畜無害だし、Nは架け橋ですから」
「アメイジング!ポケモンと人の架け橋ってことね」
ヒナギク博士は、ぱちんと両手を合わせてにっこり笑う。
「トゲピーと少し話してわかりました。ヒトを怖がってはいるけど、本当はヒトと仲良くなりたい、寂しいと感じているみたいです。だからボクは、トゲピーと対話を続けます。怖がらずに心を開いてくれるまで」
「ありがとう。研究所に来た時は、トゲピーとたくさん話してあげて」
「はい、そうします」
「そうね……それなら、これもあなたたちにお願いしちゃおうかしら」
と言って、博士がタブレット端末の画面を見せてきた。画面には、青々とした草が写っている。調査中に森で見かけたことがあると伝えると、博士の顔がパァッと明るくなった。
「これはね、パシオで発見された薬効成分があるミント、その名もパシオミント!」
「そのまんまのネーミングよね」と苦笑しながら、博士は説明を続ける。
「一般的なミントと葉の形状が同じだから間違えやすいけれど、この青い葉と赤い葉脈の派手な色味が特徴でね、色が濃いほど薬効成分が強いと言われているの。トゲピーの治療に使いたいから、午後に時間があったら、採ってきてもらえないかしら?」
ちょうど私もNも午後の予定が空いていたので、一緒に薬草採取に行くことになった。